「…………」
ピタリと、動きを止めた人々。ピタリと、止んだ音。
闇の子、それは、闇の力を宿して産まれて来た子供の事だろう。
光や灰と同じく、奇跡の力の一つ、最も類を見ない三つ目の力が、闇の力と呼ばれるもの。
闇の子と聞いた途端、歓喜に溢れていた辺りが静まり返ったのは、闇の力は、生きとし生けるものたちにとって、非常に危険なものであるからだ。
異様な事件を起こしたり、連続殺人など、猟奇的な事件を犯した犯人は、決まって光にも灰にも当てはまらない力を持つ。その力は闇と名付けられ、長生きしたければ、決して闇には関わるなと言われるほど、人々から恐れられている力なのである。
闇の力の持ち主は、光と灰の力を持つ者たちとは全く異なる思想を持つとされている。闇の力に限っては育ちや環境でなるのか、先天性のものなのか、不明だ。
身を守る力を持たない闇は短命だとされ、子供の頃に闇の力が一度でも出ると、病気の薬も効かず死に至るか、原因が不明の精神崩壊に襲われ、自殺する例がほとんど。運良く生きたとしても、連続殺人など、大罪を犯す可能性が極めて高く、獄中で自殺を図るか病死。50歳以上生きた例はいまだに発見されてないと言う。
「皆、落ち着いて聞いてくれ、隣町で闇の子が産まれただけじゃない」
ヤンは低くかすれた声を懸命に発し、静寂に陥った辺りに向け話を続けた。
「雷の力、地の力、風の力、氷の力を持った子供も各町で産まれてる…」
「…………」
「…………」
辺りが沈黙に包まれる中ヤンは下を向いて「力を持った子が、このギンフォン国で、何人も産まれて来たって事だ。何かが起こってる」と続けた。
「神々の力を宿した子供まで産まれたとは」
ラリー家の夫であり、灰の子の父親であるカイム・ラリーが、静かに口を開いた。
「あぁ…」
ヤンは下を向いたまま、頷いた。
「神々の力を持った子だなんてすごいじゃないか」
「すごいけどでも…」
「灰の子も水の力を持ってるわ」
カイムが口を開いた事で、町の人々は徐々に話始めた。
神々の力とは、炎、水、雷、風、地、氷の六つの力の事である。
灰の力を持つ者も、光の力を持つ者も、訓練次第でどの力をも扱う事はできる。光と灰が自然に身に付く力と言うなら、六つの神々の力は訓練でのみ習得が可能な力なのだ。
前に、六つ内どれかの力を授かり産まれて子供が誕生したのは、光の子や灰の子の誕生と同じく600年も前の事になる。
600年前、人の全てに備わる奇跡の力、光と灰、そして闇。それを産まれ持って宿した子供を、奇跡の子と呼んだ。炎、水、土、風、雷、氷は、訓練で人々は力を身に付ける六つの神々の力。そしてそれを宿して産まれた子供を、人々は神々の子と呼んだ。
「闇の子……」
村人の一人が呟くように言う。
600年前、光や灰の子、そして神々の子らが産まれた事は記録で分かってはいるが、闇の子が産まれたと言う情報はない。
未知な子の存在に、辺りは困惑した表情を浮かべていた。
「ヤン、案内しろ。今は、闇の子が一番の問題だ」
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