校長たちとの話を終えた時、ベルの音が鳴り響いた。
窓を見上げると、いつの間にか夕方になっていたようで、生徒たちの下校時間を知らせる鐘の音だった。
華奈子は校長たちに頭を下げ、校長室を後にする。
託叶を目で探して辺りを見渡しながら学校の外へ出ると「ままー!」と、かわいらしい声が華奈子の耳に響いて来た。
後ろを振り向く華奈子の目には、大きなランドセルを背負った託叶が駆けて来る姿が飛び込んで来る。
「まま、何をしているの? なんで学校にいるの?」
「ちょっと先生とお話をしてたの。託叶、一緒に帰ろ」
興奮したように大きな声で話しかけて来る託叶に、笑顔で答える華奈子は、優しい声を出した。
「うん。ちょっと待ってね」
うれしそうに頷いた託叶は、くるっと後ろを振り向き「ばいばーい! みんな! あしたねー!」と、声を大きく上げて数人の友達に向かって手を振った。
「ばいばーい!」
何人かの友達はたくとに向かって手を振る。
「たくとくんばいばい!」
「ばいばい!」
それに続くように、彼方此方から、いろいろな子たちが託叶に手を振っていた。
「託叶人気者」
華奈子は驚いたような顔をして友達を見つめた。
「皆クラスの子たちだよ」
託叶は無邪気に笑って華奈子の顔を見上げた。
華奈子は、託叶と手を繋ぎながら、家へ向かって歩き始める。
「まま、どうして車じゃないの?」
口を開いた託叶は、彼女の顔を見上げて、ランドセルを揺らしながら歩いていた。
息子の歩幅に合わせるように、ゆっくりと歩く華奈子が、小さく口を開く。
「学校の近くには駐車場がないから。託叶を送る時はちょっと止まればいいけど、今日は先生とお話があったからね」
首を傾げる託叶は、母親の言ってる事がよくわかっていない様子だった。
親子二人で、歩道を歩く中、通る人たちが、皆、驚いた顔で託叶を視界に入れていた。
託叶が歩く周囲は、枯れた草が元気を取り戻し、濁った水は澄んだ色に変化する。落ち込んでいる人が通りすがれば、癒やしを与え、気力をなくした人が通れば、活気を齎す。
近くを通った人たちは、彼を中心にして起こるさまざまな変化を目にし、光の子だと認識したのか、驚いたように託叶を視界に入れていた。
辺りから瞬時に集まる視線。生まれたばかりの時は、その状況に戸惑っていた華奈子だったが、今はもう慣れたようで、何も気にせず歩いている。
暫し歩いた後、家の前まで辿り着くと、明かりが付いている事に気付いた託叶は母親の手を離して駆け出して行った。
「あ! 託叶!」
華奈子が声を上げた時、託叶は「ぱぱー!」と大声で叫びながら、部屋の戸を開けた。
「おー託叶。おかえり」
玄関に入って行った託叶に、リビングから陽気な声が聞こえて来た。
「ぱぱー! ポチー! ミケー! ただいま!」
靴を脱いでリビングに入って行く託叶の足元に、ミケとポチが擦り寄って来る。
「託叶! 靴をそろえなさい!」
華奈子は笑いながら言うと、託叶は戻って来て靴をそろえ「ごめんなさい!」と早口で言い、再びリビングに駆け出して行った。
「もう」
苦笑しながら、華奈子もリビングへ向かう。
「おかえり、今日は仕事が早く終わってな」
上着を掛ける彼女に、ソファに座る清は笑顔で言った。
「そうなの」
目を丸くした華奈子。
「先生はなんだって?」
清は静かに言った。
「…………」
託叶がミケとポチと台所で遊んでいるのを確認した華奈子は、校長や担任から言われた事を、清に説明し始めた。
「ーーーーー」
黙って聞いていた清は、時折目を丸くしたり、眉を寄せたりしていた。
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