辺りは黒一色だった。暗闇の中に身を置く女の子が、懸命に目を見開いても、その瞳には、黒のほかには何も映っていない。
「あー」
彼女が声を出しても、狭い壁に自ら出した音が反響し、肌を微かに震わせるだけだ。
彼女はその光景しか知らなかった。なぜ自分はこんな所にいるのだろうとか、そんな疑問も浮かんでいないだろう。それは、産まれてからずっとここにいる彼女にとっては、これが世界であるからだ。
真っ暗な闇の中、自分の姿すら知らずにいる彼女は、声という存在を最近になって知ったようだ。
「あーあー」
彼女は、最初は小さい声を出していたが、まるで自分の声をいろいろ試しているかのように、強弱をつけて声を発していた。遊んでいるのだろうか。
彼女は言葉を知らない。自分の姿はもちろん、人の姿すら見た事がない。誰かの声を聞いた事もなければ、自分のほかの生命の存在すら知らないのだ。
すべての人は、彼女の事を知っていた。どこに幽閉されているのかも、人々は皆、知っていた。なのに、誰一人として、彼女に会いに来る者はいない。それは、彼女が闇の子という、人々に恐れられる存在だからだ。
皆に恐れられている闇の子だが、彼女は、周りに害をもたらした事もなければ、誰かを傷つけた事も一度もなかった。
彼女はただ産まれただけ。光と闇が存在する世界に、闇として産まれただけ。
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