光と闇

光の子と闇の子の物語

出発

公開日時: 2023年3月11日(土) 18:07
文字数:1,890

 ドンドン!


 ドンドン!


 ラリー家の戸が鳴ったのは、日が昇ったばかりの朝方だった。


 戸をノックする音に、カイムは目を擦りながら起きる。ラムはもう起きていたようで、赤ん坊を抱いて母乳をあげているところだった。


「まったく! もっと静かにできねぇもんか。こっちには赤ちゃんがいるんだぞ?」


 黄金の竜は、ブツブツと文句を言いながら、部屋の中を漂っていた。


「仕方ないよ。早く出てあげて」


 ミルクをあげ終わった妻を見たカイムは、戸に向かって、歩きながら「はい」と戸の外にいる人に向けて一声、声をかけた。


「ラリーさん。朝早くに失礼。各村やタウンの代表が集まっている。戸を開けてくれ」


 戸の外にいる男の言葉を聞いて、目を丸くしたカイムは、慌てて戸に手を伸ばした。どうやらカイムは、代表たちがこんなにも集まっているとは思っていなかったようだ。


 ラムは、赤ん坊を胸に抱いてカイムの後ろに歩いて行く。


 戸を開け、30名ほどの男たちが自分の家の周りに集まっているのを目の当たりにした夫婦は、しばし固まってしまっていた。


 だがすぐに「遠くからはるばるお越しいただきありがとうございます」と、戸の外に出て一礼をしたカイム。


 その後ろで、妻も頭を下げると「ぉおお!!」辺りが一気にどよめき始めた。


「こちらこそ突然押しかけて失礼した。皆、子供の誕生を一目見たくてね。その子が灰の子ですかな?」


 目を輝かせて笑顔で話す彼は、ギンフォン国の中で一番大きな町”ギンハン”の代表を務めるサタラー・ミンハと呼ばれる男だ。


「はい。今の所、病もなく、健康に過ごしております」


 サタラーたちに見せるように、赤ん坊を抱くラムは一歩前へ出た。昨日ほどではないが、赤ん坊の体からは微かに灰色のもやが渦巻いている。


「なんとかわいらしい。これは祝福の証だ。もらってくれ」


 サタラーや他の男たちは、それぞれ、手土産を持って来たようで、お米や野菜をカイムたちに差し出した。


「こんな貴重なもの!」


 食材が不足しているギンフォン国にとって、米やお肉はお金よりも大切なもの。


 大量の食材を前に、カイムとラムは首を横に振って拒んだが「はるばる持って来たんだ。快く受け取っておくれ」と、奥にいる男たちから声が上がり、頭を下げて食材を受け取った。


「そう遠慮するな。神々の子を産んだ夫婦にも同様の物をあげている。奇跡の子を産んだ君たちには足りないくらいだ。これで勘弁しておくれ」


 サタラーは、しわだらけの顔にさらにしわを作り、満面な笑みを浮かべてカイムとラムに話した。


 夫婦も彼らに笑顔を向ける中「う、う」と、赤ん坊が声を漏らした。


「奥さんは体を休めてください。ラリーさん。少しお話が」


「はい」


 少し声を低くして話したサタラーに、カイムは一言だけうなずくと、いったん妻を支えながら家に入った。


「こりゃあ入りきらないな」


 食材をしまいながら、小言を言う竜に苦笑し、カイムは、妻に行ってくるとだけ伝えて竜とともに家を出た。


 出る時に、ラムが夫に向かって「行ってらっしゃい」と言ったのは、夫はしばし遠出する事になる事を、察していたからなのだろうか。


 カイムが竜を連れて外に出ると、再び「金色の竜だ。なんと美しい」と感激の声が振って来た。


「さすがラリーさんだ。雷の力を使いこなしたとは聞いていたが」


 竜を見ながら、サタラーは目を丸くして声を漏らした。


 竜を出した力の持ち主は少なく、ギンフォン国には数えるくらいしかいない。神々の力を学ぶ学校が存在する国もあるため、竜を持つ者がギンフォン国ほど少ない国は珍しいが、学問として力を学んだ者でさえ、竜を持つ者は一握りにすぎない。


「見せもんじゃないやい!」


 大きな口を開けて子供のような声を出した金色の竜に、辺りは驚いたように目を丸くした。


「おい!」


 カイムは慌てて竜に小声で怒ると、周囲はクスクスと笑い出した。


「すみません」


 カイムは左手を頭に置き言うと、サタラーはいやいやと笑って見せた。


「ラリーさん」


 だが、サタラーの後ろにいる男たちの一人が低い声を上げた時、瞬時に辺りの空気は重くなる。皆の頭にぎった正体の知れない何かに、周囲の人々の笑顔は徐々に消えて行った。


「闇の子、ですか」


 カイムは静かに口にする。


「あぁ、今からミウンタに行くんだ。来てくれるな」


 サタラーは穏やかな顔をして言ったが、目の奥には妙な不安が見え隠れしていた。


 まだ出産を終えたばかりの妻を一人で置いて行くのが気掛りのようで、カイムはチラリと家を振り返ったが「はい。灰の子の親として、もう一人の奇跡の子を見なくては」と言い、サタラーの方へと目線を戻した。


「…………」


 そんなカイムを無言で見る竜は、黙って彼に付いて行った。



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