平和な国があった。そこは小さな島国であったが、文明も発展し、食べ物も豊富であった。そして、生活を支える数々の複雑な装置も開発され、人々の暮らしはとても豊かなものだった。
文明が発展していた平和な国の他国との交流は、争いもない良い関係を築いていた。そんな平和な島国、エフティヒアに、甲高い奇跡の泣き声が響き渡る。
「……オギャア! オギャア!」
こうこうと輝く、光に満ちた赤ん坊の泣き声が。
「見て、とてもかわいい子」
目を細め、幸せそうにほほ笑む女性は、赤ん坊を抱きながら小さくつぶやいた。
「よくやった! よく頑張った」
小さな赤ん坊を見ながら、一人の男が目に涙をためて喜びの声を上げる。
一組の若い夫婦が、出産を終えたのだ。
あまりの感動に、彼らは気付いていなかった。周りの医者や看護師たちが、赤ん坊を見ながら目を見開いていた事を。
いつもなら、笑顔を浮かべて夫婦に声をかける医者や看護師たちは、驚きのあまり、目を丸くしなら戸惑い気味に口を開いた。
「あ……あの」
目に涙をためた男が、赤ん坊から看護師に視線を移す。
「赤ちゃんさっきまでは普通だったのに…なんだかだんだん……」
呟くように言う彼女の視界には、男の妻と赤ん坊が写っていた。
不思議そうな顔をした男が、また赤ん坊に目線を戻すと、彼は目を丸くした。それはまるで看護師たちが抱えた違和感に、気付いたかのような様子だった。
「あ……」
男の妻が小さく声を上げた。どうやら、彼女も気付いたようだ。
「オギャア! オギャア!」
大きく声を上げるたびに、赤ん坊の体を包み込むような光が、強くなって行った。太陽の光が辺りに降り注ぐように、赤ん坊を中心に光が漂っていたのだ。まるで、その赤ん坊自体が、光っているかのように。
「光る赤ん坊……?」
看護師の一人が小さくつぶやくと、辺りを優しく包み込むような光が、さらに強くなって行った。
「まさか…この子は」
男は震えた声を絞り出す。
辺りを包むほど、赤ん坊から放つ光が大きくなって来た時、辺りにいた人たちは皆、頬を徐々に上へ上げて行った。
「そんな……! まさか!」
口をおさえて言う看護師の一人の顔からも、笑みがあふれている。
妻は満面の笑みを浮かべ、涙を流しながら「この子は……”光の子”だ」と声を震わせながら言った。
「私、先生たちに知らせて来ます!」
看護師の一人が喜びの声を上げ、小走りで、分娩室から出て行った。
男は涙を流しながら、妻と光る赤ん坊を見詰め感激の声を上げる。
「間違いない。まさか”光の子”が俺たちの子供で産まれて来るなんて、奇跡だ」
バタバタとあわただしい音が響いて来る中、お産をするために設けられた部屋の中は光と感動で満ち溢れていた。感動し涙を流す夫婦に、口元をおさえて目を丸くする看護師。
「神崎さん!」
あわただしくかけて来たのは病院内にいる医者や看護師たちだ。彼らもまた、奇跡的な瞬間に感激し、笑顔を浮かべていた。
神崎と呼ばれた男は、妻と赤ん坊から視線を外し、駆けつけた先生たちへ笑顔を向けた。
「華奈子さん、頑張りましたね」
看護師は涙を浮かべながら、”光の子”の母に声をかけた。
「いいえ、皆さんのおかげです。ありがとうございます。清さんも立ち会ってくれてありがとう」
華奈子は夫の顔を、目を細めて見上げた。清は、華奈子の腕に手を置いて優しくほほ笑み返している。
「大切にお預かりしますので、お母さんは、少し、休んでいてくださいね」
看護師が優しく言い、光る赤ん坊を丁寧に抱く。
「よろしくお願いします」
華奈子は優しい声で言い、赤ん坊から手を離した。
神崎 清
神崎 華奈子
この二人の間に産まれた子供が、”光の子”と呼ばれる奇跡の子だった。
光の子が島国に誕生したと、数日後には世界中のトップニュースになる事だろう。
感動で胸を暖める中、何か強い思いを心に決めたかのように、清と華奈子は目を合わせ続けていた。
平和の象徴とされる奇跡の存在、”光の子”の親となった二人は、言葉を交わす事はなく、お互いの手を力強く握っていた。
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