小さな島国、エフティヒア国。
食べ物も豊富で外国との交流も友好的な平和な国、エフティヒアでは、明るいニュースがテレビを賑わせていた。それが放送されたのは、ある夫婦が小さな子供と一緒に、ご飯を食べている時の事だった。
「見てみて清さん。また託叶が映ってる」
妻がテレビを見ながら明るい声を上げると、夫は笑顔で息子を見つめた。
『今日は光の子の5歳の誕生日! もうあれから5年、早いですねぇ~』
テレビに映るアナウンサーは、小さな男の子の写真を見ながら笑顔で話していた。
数々の料理が並ぶテーブルを囲って食事をしている家族は、テレビから聞こえる祝福の声を聴きながら、満足そうに食べ物を口に運んだ。
「託叶はもう5歳か。早いもんだな」
夫の神崎清が正面に座る男の子を見ながら言う。
「あっという間に大きくなるよ」
妻の神崎華菜子もまた、横に座る息子を見つめ、優しそうにほほ笑んだ。
二人に視線を注がれた小さな男の子は、母親と父親の顔を交互に見つめ「なーに?」とはにかみながら笑って見せた。
「にゃあ」
「ワン!」
彼らの足元には、二匹の小さな動物が肩を並べている。
「ミケ、ポチ、もう少し待ってね」
小さな男の子は、足元にいる二匹にかわいらしい声を響かせ、慌てたようにご飯を口に運んだ。
「託叶! ちゃんと噛んで食べなさい!」
母親が注意すると、男の子は「はい」と小さく言い、一生懸命あごを動かした。
「おいおい大丈夫か?」
そんな息子を笑って見つめながら口にする父親。
神崎家に産まれた光の子は託叶と名付けられ、両親の愛情を一身に受け、思い遣りのある子へ育って行った。
光の子の誕生をメディアは大きく取り上げ、彼が育って行く姿は世界に大きな期待が持たれている。
託叶は五歳でありながらも、他の同じ歳の子供とは違い、一年早く学校へ向かう事となっていた。それは、光の子の教育に関して、国会で議論した結果、決定した事である。
「ごちそうさまでした!」
元気な声を響かせた託叶は、お茶碗を台所へ持って行き、犬と猫を抱きしめた。
犬は大きく尻尾を振って顔を#舐__な__#め、猫はゴロゴロと喉を鳴らし、託叶の体に頭を擦り付けている。ケラケラと笑いながら動物と触れ合う託叶。どうやらこれがしたかったようだ。
「託叶、明日の学校の準備するぞ」
清が言うと「がっこう! うん!」満面の笑みで顔を上げた託叶。
「学校、好きだもんね」
華奈子が息子に優しく声をかけ、終えた食事の食器を洗い始める。立ち上がり歩き出した清に着いて行く託叶。
リビングから廊下に出て部屋へ入って行く清は、散乱しているおもちゃを片付けながら、ランドセルに手を伸ばした。
ランドセルを持った清は、買ったばかりの机を見て、首をかしげる。机の上に普段は引き出しの中に入っているはずの教科書が散乱していたのだ。
「託叶」
清は息子に声をかける。
「んー?」
ランドセルに夢中になっている託叶は、気の抜けた声を漏らした。
「教科書、開いたのか? 全部机の上に出てるぞ」
清は言うと、託叶は清の顔を見上げ「うん。片付けなくてごめんなさい」と声を小さくして謝った。
清が「あぁ、片付けような」と言って息子の頭を撫でる。
託叶は「はい。でも勉強って面白いね」と、返事を返した。
「おまえまだ、字、読めないだろ」
笑いながら口にする清。
「もう教科書を見て覚えたよ! 全部覚えたよ!」
大きな声で興奮したように話す託叶。いち早く学校へ行き、授業を受ける託叶は、学校で提示される問題を解いて行く事を楽しく思っているようだ。
「え」
一瞬真顔になった清は、国語の教科書を手に取った。
パラパラとページをめくる中、教科書には何も書き込んだ跡もなければ、ひらがなを練習した形跡もない。
清は託叶が冗談を言ったのだと思ったようで、彼に笑いかけようと笑顔で顔を上げた。
「16ページの3行目にはね! ~~~って書いてあってね! 算数の答えもね! 一個目が2で二個目は6でね!」
託叶は楽しそうに、教科書の中身を話し始めた。
清は慌てて国語の教科書の16ページを開き、3行目に目を向けると、託叶の言う通りの言葉がそこに書かれていた。そして、算数の教科書を開くと、単純な足し算が並ぶ中、息子の言った答えが、全て、合っている。
「全部覚えたのか」
目を丸くして教科書を直視する清。
「うん! 算数の答えがね。8で6、3でね。それでね。学校から家までは、7分で着くんだよ」
ランドセルを触りながら話し続ける託叶は、算数の教科書に書いていないはずの距離の計算までし始めた。
「割り算の計算なんてこの教科書には書いてないだろ? どこで覚えたんだ?」
清が目を見開きながら託叶に口を開くと「わりざんって何ー?」託叶は首をかしげて彼を見上げた。
どうやら、教科書を見て覚えた計算方式ではないようだ。
「…………」
再び沈黙し始めた清を不思議そうに見つめる託叶の元に「準備できた?」と華奈子が顔を覗《のぞ》かせた。
「…………」
清はゆっくりと華奈子を視界に入れると「この子は、天才だ」と、口にした。
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