巨大な体躯が、少女に向かって襲いかかる。
少女は刀の柄を握りしめたまま動かない。
微動だにしていなかった。
2人の背後に点滅する信号機が、コンマ1の刹那に、立ち止まっているようにさえ見えて。
ザッ
地面と靴が擦れる音がする。
その摩擦力は、空気を動かす程度には“強く”なかった。
ただ、地面に写る影を動かす程度には、確かな輪郭を切り抜いていた。
耳の皮膜に残る質感と、——弾力。
その重心の深く、——ずっと“近い”ところに地面が疾る。
土埃の舞う痕跡が、瞬く間に視界を横切り。
ドッ
スニーカー。
少女の履いていた靴だった。
緑色の紐が、刹那の中心に揺れ動いていた。
「音」は、後から聞こえてきた。
赤い鮮血が空中に舞う。
重力に乗っかっていない丸い粒状の「赤」。
それが、まるでシャボン玉のようにふわりと宙に止まり。
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