滑空する刀身。
その最中に、光が揺れる。
回転していたのは少女と大男の間にある“射程圏内”だった。
血液の中に酸素が入る。
跳躍する筋肉が、バネのように空気を弾く。
刀身の先端が地面の上を滑空するや否や、にぶい音が空間を走った。
大男はバランスを崩したように膝を折る。
下半身が崩れ落ちる間際、その半身はまだ、腕を下ろすことだけに終始していた。
それが“間に合わなかった”のは、すでに腕を下ろせるだけの力が、——物理的な構造が、そこに残っていなかったからだ。
ドッ
大男の体には、一本の「線」が入っていた。
膝を折る挙動と時間差で訪れたのは、
——血だ。
噴水から出る水のように、体の中心から赤い鮮血が飛び出る。
上半身と下半身のちょうど真ん中を切り裂かれた体は、それぞれが別の方向へと傾いていた。
少女は刀を鞘に収めた。
柄を握りながら、すでに息を“吐いている”。
躍動する時間が、平坦な空間の中に飛び去ろうとしていた。
少女の動きは滑らかだった。
それでいて、限りない一点の中に縮まろうとしていた。
勝負はもう決していたんだ。
袂を分かったのは、少女が放った斬撃だった。
凄まじい速度で絞り出された一閃が、大男の腹を裂く。
そこに濁りはなかった。
空気の乱れも、澱みも。
少女が触れていたのは、大男との間にある直線的な間合いだった。
斬撃が届く半径の手前では、大男の影が地面の底を衝こうとしていた。
少女はただ、その中心に踵を押し込むように、“最小”の動作を繰り出しただけだった。
刀が通り抜けたその角度には、踏み込んだスピードが緩む気配さえなかった。
刀が鞘に収まる頃には、もう、2人の距離は永遠に分かたれていた。
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