俺が中学生の時の社会の時間での話だ。
明治初期に富岡製糸場は誕生した。そこで働くのは女性で、年は十六歳から。
「そんな成人も迎えてないきゃわゆい女の子が、苛酷な労働をしてたなんて…カワイソ過ぎる!」
今のは、カゲトの台詞だからな。俺のじゃないぞ? 絶対に間違えるな!
確かに教科書には、一日十一時間労働って書いてあった。今の労働時間はだいたい九時間ぐらい。おお、まごうことなきブラック。日本の近代化を支えたのがブラック企業だったなんて…。何か、悲しいな。
んなワケあるかい! 富岡製糸場は、二〇一四年に世界遺産に認定された。ブラック企業が世界遺産されたって? 笑わせるなよ腹筋痛い!
富岡製糸場は寧ろ、蚕のシルクのごときホワイト企業だぜ。俺も就職したいくらいだ。
確かに十一時間労働ってのもあったにはあった。でも、ある条件があったんだ。
それは、夏に行われるということ。
実は当時の富岡製糸場、照明器具が一切なかった。だから日が暮れると手元が見えず、仕事ができない。故に労働時間はお日様が登っている間だけ。だから夏場は長めだけど、冬は短くなる。それでも八時間ぐらいだが…。
労働環境に目をやると、ここもホワイト。食事と休憩は時間が決まっている。日曜日は必ず休みだし、先に言ったように夜は働けないので残業がない。製糸場には病院もあった。それに階級に見合った給料ももらえたのだ。
ほぼ毎日日の出から日没まで働かなければいけず、天候によって収穫量が左右される当時の農業と比べると、富岡製糸場は随分と最先端。ここで働く女性を工女と言うが、工女は憧れの存在だったんだ。
その工女が今の日本の労働を見たら、きっと苦笑いしかしてくれねえや…。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!