都市伝説体験日記

杜都醍醐
杜都醍醐

フル・パンデミック

公開日時: 2020年9月1日(火) 07:00
文字数:1,675

「インフルエンザって、人口調整に使われる人工ウィルスなんだよきっと!」


 ほら吹きホムラが興味深いことを言っていた。


「その真理は?」


 一応、話を聞いてみよう。


「毎年違うワクチンを接種しないといけないじゃない? これは某国の某医療所が、毎年違う型のウィルスを生産してばら撒いているのよ! 米の国なら不可能じゃないわ」


 これは新説だな。だがインフルエンザについては生物学で少し触れた。


「それにさぁ」

「何?」

「ワクチンも同じ医療所で作れば、毎年儲けられる。そしてその資金で新たなウィルスを作って…の繰り返し。そして違う所にお金が流れていくってワケ」


 俺は、なるほどなっと思った。


「ホムラにしては、なかなかのアイデアじゃないか」

「えっへんっ!」


 俺もその考えに乗りたくなってきたぞ。


「もしかしてさ、新しいウィルスもその医療所で作られてんのかもな。そして国際的なイベントでばら撒く…」

「東京オリンピックね」

「観戦者が感染者になる…」

「富裕層は死にたくないから、高額でもワクチンや特効薬を買い求める…」

「さらに儲けるわけか。できたシナリオだな…」


 あながち間違ってなさそうなのが、都市伝説らしい。



 パンデミックとは、大流行って意味だ。インフルエンザは英語でフル。また、全体って英語もスペルは違うがフルと読む。この都市伝説の名前フル・パンデミックは、ある意味ダブルネーミング。


 さてインフルエンザウィルスについて、大学の講義で習った範囲で解説しよう。

 まず先に、免疫について解説だ。生物の体には、免疫機能がある。一度かかったことがある伝染病には、かかりにくくなる。これは免疫細胞が病原体(抗原)を記憶しており、次に体に侵入するとすぐに反応して無毒化するからだ。これが過剰に働けば、アナフィラキシーショックとなる。逆に初めて入って来る病原体には、反応が遅れる。無毒化できる抗体が体の中にないからだ。

 インフルエンザに毎年かかる人って結構いるよな? 俺もその一人だけど…。

 インフルエンザは変異がしやすいって聞く。何でなのか? これは人工ウィルスだから、ではない。

 インフルエンザウィルスの遺伝情報は、RNAによって保存されている。DNAの間違いでは? ってなる人もいるだろうが、俺のタイプミスではないぞ。


 核酸には二種類ある。俺たち人間をはじめとして、地球上の生物は全て、遺伝情報はDNAが記録している。遺伝情報が発現する時、RNAに写し取られてからタンパク質が作られる。DNAからRNAに、RNAからタンパク質に。これがセントラルドグマ。

 何でRNAに遺伝情報を記録している生物がいないのかというと、答えはただ一つだ。それは「RNAは突然変異しやすい」からだ。今まで先祖代々受け継いできた情報が、突然変異でいきなり書き換わっては、大迷惑。よっぽどの環境変化がない限り、その突然変異は不利になる。

 RNAを遺伝情報とするウィルスは他にもある(DNAが遺伝情報のウィルスもいる)。SARSウィルス、エボラウィルス、ノロ、デング熱、HIV等々。ちなみにウィルスは生物ではない。そのためウィルスの突然変異は、大歓迎。俺たちにとっては大迷惑だけど…。


 インフルエンザウィルスが変異しやすいのは、突然変異が起きやすいRNAで遺伝情報を保存しているからだ。そして遺伝情報が書き換われば、発現する型が異なり、新しい病原体となる。それに対処できる免疫は、体には存在しない。


 だからインフルエンザには毎年感染するのだ…! だって体の中には、去年までの型に対する抗体しか存在しない。


 そこでワクチンを接種する。勘違いしやすいが、ワクチンは薬ではない。毒性が低いまたは全くない病原体だ。それを体に予め入れておき、抗体を作っておく。そして本物の病原体が侵入した時に、抗体が働いて病気に発症しないまたは症状が抑えられる。

 物理専攻の俺が説明できるのは、これぐらいだ。ちょっとわかりにくかったかもしれないが、勘弁してほしい。


 とりあえず症状が出たら、素直に休もうぜ。無理して家の外に出れば、バイオハザードになっちまう。それこそフル・パンデミックだ。

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