都市伝説体験日記

杜都醍醐
杜都醍醐

人面犬

公開日時: 2020年9月1日(火) 07:00
文字数:1,032

 俺は犬を飼っていた時期がある。


「おい骨谷。散歩行こうぜ」


 犬は猫と違って、散歩に連れて行かないといけない。炬燵で丸くなっていてくれればどんなに楽なことか。


「そう焦るな」


 俺は犬の首輪にリードを繋いで、雪降る中散歩に出掛けた。


「お前、大学はどうするんだ?」

「受かれば山大に行く。もうA判定出てんだし、確定だろ?」

「油断すんなよ? 受験は何が起きるかわかんねえんだぞ?」

「黙れよ。経験したこともないくせに」


 俺は雑談しながら、万歩計の歩数が一万歩を越えるまで歩いた。


「流石に疲れたぜ。もう帰ろう。帰ってミルクを飲ませてくれ」


 相変わらず行儀が悪い野郎だ。自分から散歩って言い出しておいて、もう帰るのか?


「まだ駄目だ。あと二千三百歩」


 勘弁してくれよって言われたが俺は無視した。俺からすればコイツをいつまでも飼っている義理はない。いつでもどっかの研究機関に引き渡してもいいんだぜ?

 一応、家に帰ったらちゃんとミルクを飲ませてはやろう。



 人面犬も有名な都市伝説だ。


 よく人の顔をした生物がいるって話は聞くが、それの大部分は模様がそのように見えるってだけだ。

 だが人面犬は、本当に人の顔をしている。犬の顔に、人の顔を張り付けた様な外見。どういうわけかほとんどの場合、その顔はオッサンである。俺の時もそうだった。人面犬は女子のスカートを下から覗いて喜んでんのか? だとしたら大いに納得なんだが。


 なぜ人語を話すのかはわからない。もしかして脳も人と同じものを搭載しているのかもしれない。そしたら喉の構造も言葉が発せるように………やめよう。物理専攻の俺では、生物の話はできそうにない。


 興味深いのは、犬面人の話だ。ちなみに犬面人という言葉はない。あるとわかりやすいと思って今さっき考えついた。


 とある研究所で人面犬は誕生したらしい。それが逃げ出して、一般社会に現れたって話をよく聞く。そしてその研究所では同じ日に、犬の顔をした人の赤ん坊が誕生したんだとか。遺伝子組換え動物を研究している機関だったそうだ。

 その分野には詳しくはないのだが、遺伝子を少しいじっただけでは犬の顔は人にはならないと思う。そもそも人も犬もホ乳類だから、出産した母親が必ずいるはずで…。

 もうわかるだろう。犬に人面犬を産ませたのは百歩譲って理解可能だとしても、犬面人を産みますって名乗り出る女性なんていやしない。これは一万歩譲っても駄目。


 都市伝説としての人面犬は、素人が生物の設計図、遺伝子に憧れを抱いて生み出されたんじゃないかと俺は思う。

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