ファーストフード店はクビになったので、俺は大学の先輩のツテで、他のバイトに就いた。
「おっす。龍堵、お前も一緒か」
「カゲトじゃないか、久しぶり」
今回一緒にバイトするのは、小路カゲト。中学時代の同級生で、大学で再会した。
「お前、バイトの内容聞いてる?」
「いや。九時に病院前集合としか言われていない」
「やっぱかー。俺も先輩に聞いたんだけど、何も教えてくれないんだよなぁ」
カゲトと雑談して時間を潰していると、医者と思しき女性が院内から出てきた。
「こちらです」
案内されて病院に入る。
この時俺はちょっと不安だった。病院でアルバイトって、医学部生じゃなくてもできんのか? 俺もカゲトも理学部なんだが。
きっと掃除のバイトなんだと自分に言い聞かせ、女性の後を追った。
「こちらの階段を下ります」
地下に進む。
「また地下かよ…」
俺は小声で呟いた。
地下の扉を開くと、薄暗い照明の下に大きなプールがそこに存在した。
「え? え? え?」
混乱するカゲト。安心しろよ、俺もついていけてないから。
「これをお使いください」
女性は棒を俺たちに渡した。
「何をするんですか?」
俺はもう我慢ができなくなったので、質問した。女性は笑顔で、
「浮かんでくる物を、棒で突いて沈めてください」
と答えた。
浮かんでくる…? 意味不明だったが、言われた通りの仕事をしなくては。俺とカゲトは棒を構えてプールサイドに立った。
「うっ!」
カゲトがプールから目を逸らした。水の底から浮かんできたのは人の死体だった。
「早く沈めなさい」
女性が急かすので、俺は棒で突いて沈めた。よく見るとプールのあちこちで、死体が浮かび上がっている。
「全部、よろしくね」
女性は別の扉を開けて、その中に入っていった。仕方なく俺とカゲトは、死体を棒で突いて沈める。子供、お年寄り、女性、男性、赤ん坊…。死体の種類は多岐に渡った。
「これで最後か。ふう」
若い男性の死体をカゲトが突いて沈めた。
「追加でーす」
女性がまた別の扉を開けると、そこにはいくつもの死体…。
「こっちは運んでプールに入れてね」
俺もカゲトも、この仕事を続ける気になれなかった。一応女性に言われた通り、死体を一体ずつ運んでプールに入れたが…。
女性がさっきの扉に入ったのを確認したら、二人で作業を投げ出し、扉を乱暴に開けて階段を駆け上り、病院を出て大学に逃げた。
死体洗いのアルバイトは結構知名度がある。同時に穴も多くある都市伝説だ。
プールを満たしているのは、ホルマリン。でも待ってくれ。ホルマリンって気化しやすいし毒性も高い。そんなものをプール一杯分用意しようものなら、死体洗いが死体になってしまう。
また、ホルマリンプールで死体を洗う意義も問いただしたい。不幸にも病院でなくなった人って、そんなに汚れてるのか? 事故死ならある程度はわかるけど、病死ならそんなに汚くないだろう。
だから死体洗いのアルバイトなんて、どこの病院も募集していない。
しかし、内容が大分異なるが、死化粧の仕事は存在する。
葬儀の時に湯灌をすることがある。これは遺体を入浴洗浄する行為だ。また、死亡直後の清拭も死化粧と同時に行われることもある。
だが、アルバイト程度の身分に遺体を触らせるほど業者も馬鹿じゃない。そういう行為は正社員や看護婦しか行わない。
死んだとしても、ホルマリンプールで洗ったりは絶対ないから、安心して永眠できるぞ。
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