山寺に行った時の話だ。
「兄さん待って」
エミリが遅れていた。
「受験は待ってくれないぞ? さあ急げ!」
そう言うと俺は前に向き直って走ろうとした。
そしたらぶつかったのだ。ちょうど階段じゃない所だったから、俺は尻餅を着けた。
「いてて。だ、大丈夫?」
「心配無用! 我らこの程度の怪我では止まらぬ!」
我らって、お前一人しかいないだろ…。俺がそのことを指摘すると、
「笑止! お前たちに我らの姿、捉えられると思うてか!」
「どういうことだ?」
エミリも俺に追いついたし。俺はぶつかった少年の話を聞くことにした。
「我ら今の時を生きる、現代忍者なり!」
「現代…忍…者?」
改めて少年のことをよく見たが、普通にその辺にいそうな格好。つまりは全然忍んでいない。
「何ですそれ?」
エミリが聞く。すると少年は、
「今のご時世、自ら身を隠してはかえって目立つ。周囲の人間の群れに溶け込むことが現代忍術の基本! それこそ怪しまれぬこと、この上なし!」
なるほどなあ。普通にしてれば目立たないという考え方か。
「他には何ができるんだ?」
「最先端技術を忍術に取り組んだ現代忍者なら、何でもやってみせようぞ!」
「じゃあ分身の術をやってくれ」
俺は無茶ぶりをしたが、
「よかろう! 見て驚くな!」
少し準備をすると、その忍者は分身の術をその場でやってみせた。忍者が三人、いる!
「ま、マジかよ!」
「嘘…」
俺もエミリも驚いた。
俺は分身に腕を伸ばした。実体はやはりない様だ。
「ん、これは…」
この分身の術、自分の影を周りのエネルギースクリーンに投映している。
「よくぞ仕組みを見破った。あっぱれ!」
他にも何かできるようだが、忍者も修行で忙しいのだろう。俺が別れを告げると、忍者は勢いよく階段を下って行く。いつの間にか、五人になっている。
現代にも、忍者っているのか? そういう疑問はわかる。
まずは忍者について解説だ。
忍者の役割は、情報収集と暗殺だ。敵地に赴いて情報を集め、命令されれば対象を抹殺する。普段は武士や農民など、偽りの職業を演じている。
また忍者は、山地などを拠点とし、腕のいい人物を大名などに雇わせた。これは山地では農業を営むことが難しくてお金を獲得する術が少ないので、傭兵を出して対価をもらうシステムなのだ。実は日本限定ではなく、世界各地で同じようなことが行われていた。
要するに「昼間は一般市民を装う傭兵部隊」ってところか。
話を戻そう。現代にも忍者はいる。忍術や武術を継承した人がその道で技を披露しているよ。詳しく知りたいのなら、三重県の伊賀市に行ってみると良いだろう。
でもみんなが知りたいのは、そっちの忍者じゃないよな? 大丈夫。その話もしてやろう。
俺的には、現代のスパイが忍者って言えると思う。だってやってること、同じじゃないか? 情報収集や暗殺はスパイだって行う。昼間は一般市民と見分けがつかない。
残念なことに、日本にも他国の忍者、すなわちスパイは大勢いるだろうよ。日本にはスパイ防止法がないから止めようがないし、日本の進んだ技術は母国に持って帰るにあたって、この上ないお土産になる。もしかして、隣の部屋の住民がそうなのかもよ?
俺が山寺で出会った現代忍者は、日本武芸としての忍者の発展形で、その正統なる継承者であって欲しいな。
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