都市伝説体験日記

杜都醍醐
杜都醍醐

壊れない車

公開日時: 2020年9月1日(火) 07:00
文字数:1,100

 俺の同期に綿部わたぶランドウって男がいる。金持ちのボンボンだ。

 ある夜俺はランドウとドライブに行った。山の上から夜景を見ようって話だった。俺はその時免許を持ってなかったから、運転は全部ランドウが担当した。


「どうだ。すごいだろ!」

「何が?」

「車だよ車! これ、ロールスロイスなんだぜ?」


 俺は車種については詳しくないのだが、高級車なんだそう。これだから金持ちのボンボンは…。

 ロールスロイスに乗り込んで山間部を走る。大してきつくもない坂道でいきなり止まる。


「どうしたんだよ?」

「あれれれ? っかしいな…。アクセル踏んでも反応しない…?」

「エンストか?」

「いや…。エンジントラブルだと思う。ボンネットを開けようぜ」


 車から降りてボンネットを開けた。


「あららら…。こりゃ駄目だ…」


 ランドウはエンジンを一目見ただけでそう言った。どうやら修理不能レベルで壊れているらしい。運転はそんなに荒々しくなかったので、本当にエンジンに問題があるようだ。


「どうすんの? ソニー損保に電話?」

「いや。先に車の会社に文句を言ってやる!」


 下山するのが最優先な気がしなくもないが…。ランドウは携帯で電話をかけた。ランドウが一通り文句を言い終ると、オペレーターが一言。


「保険会社に通報せず、そのままそこでお待ちください」


 俺とランドウは、お互いに顔を合わせて一言。


「意味わっかんねえ!」


 十分後、レッカー車が一台坂道を登って来た。後ろにはランドウと同じロールスロイス。

 レッカー車のドライバーは、ランドウに本人確認を行うと、持って来たロールスロイスの鍵を渡した。そしてエンジントラブルを起こしたロールスロイスをレッカー車で運んで行った。

 一瞬の早業。何が起きたか、理解するのに時間がかかった。


「ランドウお前…。何もこの場で新車買わんでもいいだろう?」

「いややや。俺、注文してねえよ?」


 雲行きが怪しくなってきた。俺はランドウに、車の会社に電話させた。すると先ほどと同じオペレーターだったにも関わらず、車の故障については「そのような事実はございません」の一点張り。

 しかし最後に、


「ロールスロイスは壊れません」


 と言って電話が切れた。



 この都市伝説、ちょっとバリエーションがあるようだ。

 壊れた場所は砂漠だったり、運ぶ方法はヘリだったり。新車ではなくエンジニアが来てその場で修理したり…。

 しかし全てに共通するのは、請求書の類が一切送られて来ないことと、故障をなかったことにすることだ。

 俺は金持ちじゃないからわからないが、もしロールスロイスを持っていたら、是非とも実証してみて欲しい。ちょっと壊してみてくれないか?


 場合によっては、「そのような事実はございません」と俺は言う。

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