都市伝説体験日記

杜都醍醐
杜都醍醐

運転手は元社長?

公開日時: 2020年9月1日(火) 07:00
文字数:1,315

 都市伝説調査の時に電車が止まったから、タクシーで移動することになった。


「どこも混んでるな…。これが東京か。まるで違う国に来たようだぜ…」

「あなたが田舎者のだけ」


 仙台よりも人口は多いはずだ。この井の中の蛙ホムラ、偉そうにしやがって…。

 都会のタクシーは素人が多くて危険って聞くが、土地勘もないところで目的地にたどり着こうとする方が無謀だ。俺たちはタクシーを拾った。


「お!」


 俺はこの時、ラッキーだと思った。運転手は五十代くらい。若手よりもきっと道を知っているはずだ。

 俺が先に、そしてホムラが乗り込むのを運転手が見届けると、


「ったく、若いのにタクシーなんか乗りやがって…」


 小声だったが、そう言うのが聞こえた。ホムラは聞いてなかったようなので、俺も知らんふりをした。


「で、どこまで?」

「え~と、市原ホテルっていう…」

「あんな所かよ。全く…」


 俺は運転手の言葉に苛立ちを感じた。ホムラの方を見ると、不愉快そうだった。

 タクシーが走り出した。運転はかなり荒々しく、体が揺れまくった。

 赤信号を平気で無視しようとした時、流石のホムラも我慢できなかったのか、


「ちょっと! ちゃんと止ま…!」


 次の瞬間、急ブレーキ。シートベルトしてて本当に良かったと感じたぞ…。


「うるせえなあ! 早く着きたいだろう? 少しぐらい我慢しろよ!」


 運転手の口調は強い。ホムラは黙った。

 だが俺も不快だったので、もうしばらく走った後、


「もういいです…。ここで降ろして下さい」


 また急ブレーキだ。そして金を払おうとした時、すごい気持ち悪い顔で、


「よく見るとお嬢ちゃん、美人だね。割り引くから君だけ、もうちょっと長く乗ってかない?」


 コイツ…。自分の立場わかってるのか? 俺がホムラを譲るワケないだろうお前に!


「駄目に決まってるだろ!」


 俺が小銭を投げつけて叫ぶと、


「ぜ~ったいにお断り!」


 ホムラも同じ意見だった。



 タクシーの運転手は、千差万別だ。無口な人もいれば馴れ馴れしい人もいる。

 一番気に食わないのは、偉そうな運転手。高圧的、乱暴な運転、スケベ丸出しの台詞…。お客が離れることを想定していないんじゃないのか?


 何でそんな態度なのか。これにはちゃんとした理由がある。

 それは「タクシー運転手の一割は元社長」ということ。


 詳しく説明しよう。

 タクシー運転手になるには、免許がいる。普通第二種免許っていうもの。これはお金をもらってお客を乗せて走る時に必要な資格だ。

 逆に言えば、それ以外には特に必要なものはない。だからタクシー運転手は、経験も経歴も問われない。

 だから事業に失敗し、一文無しになってしまった元社長は、家庭や借金のために仕方なくタクシーを走らせてるのだ。俺たちみたいな若者が利用しようものなら、そりゃあ腹が立つわけよ。


 元社長っていうのも原因だな。命令する立場だったから、偉そうになる。命令を受ける立場じゃなかったから、命令されると苛立つ。そんな性格だから会社、倒産したんじゃないのか…?

 統計的に見ると全体のタクシー運転手の一割だけであって、全員がそうではない。だから偏見はできるだけ持たないでタクシーに乗って欲しい。


 それでも運転手の態度が悪かったら、間違いなく元社長だろうね。運がいいのか、悪いのか…。

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