例の都市伝説調査の時の話だ。
「登ってみたくないか? 東京タワー」
俺は目の前にそびえ立つ、赤い鉄塔に心を奪われた。
「やだわ。私は嫌よ。あなた一人で登って」
美人局のホムラが拒否る。
「入場料なら俺が出すぜ!」
ホムラの腕を俺は強引に引っ張り、東京タワーに上った。
まずは大展望台だ。
「見ろよ。東京中が見下ろせるぜ!」
この時のホムラの足取りは、少し震えていた。でも俺について来た。
「ここ、床がガラス張りになってるぜ!」
俺は子供みたいにはしゃいだ。しかし、ホムラがその床の上には来なかった。
次は特別展望台だ。
「おお高ぇー!」
俺はエレベーターから降りると、走って窓の方に向かった。
「すごいじゃないかよ、ホムラ! …ホムラ?」
ホムラはエレベーターの前で、こちらに背を向けてしゃがんでいた。
「どうしたんだホムラ?」
俺が肩を叩くと、ホムラは何かが外れたみたいにいきなり、
「嫌よ嫌! お願いだから下に降ろして! こんな所にいたくないわ、死んじゃう! 嫌、嫌、何も見たくない感じたくない触りたくない聞きたくない! いや、いや! いやあああああああああああああっ!」
頭を抱えながらそう叫んだ。
流石にこれは何かある。俺はそう判断して、係員にお願いして一階に降ろしてもらった。
地上に降りると、さっきまでの発狂が嘘のようにホムラは元気になった。
近くのカフェでホムラの話を聞いた。
「私、高所恐怖症なの…」
「そうだったのか。何で先に言ってくれないんだよ?」
するとホムラは全然違う話を言い出した。
「きっと恐怖症って、前世が関係してると思うわ!」
「と言うと?」
「私の前世、きっと高いところから落ちて死んだのよ。だから生まれ変わっても、その恐怖が記憶にあって、高いところが苦手になる」
「じゃあ何だ? 例えば先端恐怖症の人は、尖った物に刺されて死んだとか? 暗所恐怖症の人は暗いところで亡くなった? 飛行機恐怖症なら…」
「飛行機事故で亡くなった。流石は龍堵。話が早いじゃない」
恐怖症の原因は、俺が知っているのは四つ。
一つ目は、遺伝だ。生まれつき、高いところに対して他の人よりも不安を感じやすい。ホムラのは多分これじゃないかな?
二つ目は、事故。実際に高いところで事故に遭ったことがあって…。言わばトラウマ。不安の原因がなくなった後も、症状が出やすい。
三つ目は、薬。意外かもしれないけど、人によってはコーヒーのカフェインでも不安が引き起こされるそうだ。
四つ目は、転機。過去の辛い経験や、今の生活での大きな変化が主な不安の原因となる。
まあ精神的な病気だから本当にこの四つが原因なのかって言われると、自信はちょっとなぁ…。当てはまらない人もいるだろうし、そもそも何に対して不安を感じるかが違ってくると、専門分野じゃない俺ではわからない。医学部の学生に聞かないと駄目だ。
でもホムラの新説は、違う気がする。だって前世の記憶って、そんな嫌な物は前の世界に置いて来ればいいじゃねえかよ!
また人間に生まれ変われる確率ってそんなに高くないんだろうし、大体ホムラの前世は人間確定なの? 前世で何すれば神様がもう一度、人としての生命歩ませてくれるんだ?
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