都市伝説体験日記

杜都醍醐
杜都醍醐

リッパード・マウス・レディ・ザ・ファイナル

公開日時: 2020年9月1日(火) 07:00
文字数:1,022

 気がつけば俺は、実家の周辺を歩いているといつも、赤いワンピースを探していた。

 都市伝説と言えば、いつだって口裂け女から出発するのだ。

 俺は無我夢中で探し回った。何故か今日を逃すと、二度と会えなくなる気がしたからだ。


「何処にいるんだー! 出て来い!」


 俺は無意味に叫んだ。すれ違う人からすれば、頭に蛆湧いてると思われること間違いないし。

 そして当てもなく、また走り出す。


「ムッ!」


 一瞬だけ、マスクをした女性が見えた。もちろん道を戻って後を追う。


「いない…だと?」


 さっきまでそこにいたはずなのに…。

 俺は落ち込んだ。もみじ公園のベンチに座った。


「見つけた」


 誰かが俺に言った。俺が顔を上げると、そこにはあの赤いワンピース。


「口裂け女か…」


 今さら出てくるなよ。もう俺、泣きそうだぞ?


「私、キレイ?」


 お決まりの台詞。


「女が醜いはずがないだろう?」


 俺は答えた。本来ならここで口裂け女はマスクを外すのだが、


「取らなくていいぞ。面倒だから」


 俺がさせなかった。口裂け女は俺の隣に座った。


「悩み事でも?」


 口裂け女が相談に乗るなんて、聞いたことないぞ? しかし、手詰まり感がある。


「…大学院に進んだはいいんだけどさ。これからやっていく研究は全然違う内容なんだよな。しかも将来はシステムエンジニアしかなさそうだ。進学しないで就職すればよかったんだ」


 将来については、誰だって悩むさ。


「そう悲観的にならないで。生きていれば道は多いわ」


 お前が言うなと言いたいが、やめた。


「俺は、都市伝説を研究してみたかったんだけどな。諦めて物理の道に進んだけど、間違ってたのかもな…」

「その考えが間違ってる」


 自分が都市伝説的存在のくせに、何を言い出すんだ?


「都市伝説に深入りしちゃだめよ。今すぐ引き返しなさい」


 そう言って口裂け女は立ち上がった。


「待てよ。どういう意味だ?」


 俺も立ち上がったが、そこにはもう口裂け女はいなかった。



 今現在に至るまで、口裂け女があのような行動をするということは報告されていない。こんなイレギュラーがあるのだろうか?

 俺は様々な文献を探したが、何処にも書かれていない。なら俺が、新しい行動を報告するべきだろうか?

 いや、やめておこう。恐らく何か、特別な条件を満たす必要がある。できないならいつも通りの口裂け女が出現するだけだ。

 最後に言っていたことも気になる。都市伝説に深入りするなだって? それは、警告なのか?


 色々と確かめるべきことがある。だが、口裂け女は、二度と俺の前に現れなかった。

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