「二人とも助けてくれてありがとうね」
「いえ、困っている姿を見かけたので助けないとと思いまして」
出雲がそう言うと、愛理がそうねと言っていた。
「二人は何でこんな場所にいたんだ? ここには何もないはずだけど?」
「うん。ここは古代の遺跡や古い建築物が多い場所だけど」
そう言われた出雲と愛理は事情があってこの場所に来ましたと言う。その言葉を聞いた二人は、とりあえず行く町まで連れて行くよと言ってくれた。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
出雲と愛理が男性に感謝を述べていると、女性が荷台に乗って行きましょうと言った。出雲と愛理は荷台に乗り込むと、馬車が静かに動き出した。
「自己紹介がまだだったな、俺の名前は月影伊織だ。で、隣にいるこの美人さんが十六夜茉莉だ」
「十六夜茉莉よ。よろしくね」
二人が挨拶をすると出雲と愛理も自己紹介をした。どこから来たかは話してはいないが、名前だけを言った。すると、伊織が篁ってどこかで聞いたことあるなと悩んでいたが、茉莉が今はいいでしょと言ったことで伊織は考えるのを止めた。
「ま、お前たちが秘密を抱えていることはその姿からでも分かるがな。無理には聞かないさ」
「そうね。巻き込まれるのはもう散々よ」
両手を横にして茉莉が溜息をついていた。伊織はその姿を見るとごめんなと何度も言っていた。
「すぐ人の話を信じるから、さっきみたいに魔物に追われるのよ! 何度死にかけたことやら……」
自身の体を抱きかかえた茉莉は、怖い怖いと言っている。伊織は小さな空笑いを浮かべていると、愛理がここはどこの大陸ですかと不意に伊織に聞いた。
「その質問をしてくるってことは、やっぱりこの大陸の住人じゃねぇのな。この大陸はアムリシア大陸だよ。東の果てと言われている大陸だな」
アムリシア大陸と聞いた愛理は、ユメリア大陸から遠すぎると思っていた。出雲はどこだろうと頭にハテナを浮かべているが、愛理の言葉を聞いて遠い大陸何だろうと察した。
「君たちがどこから来たかは聞かないが、これからどうするつもりなんだ? 目的があってこの大陸にいるんだろう?」
「そうね。何も知らない大陸に二人だけじゃ危ないし、動くことも出来ないでしょう?」
「そうですね。私と隣にいる出雲は、ある目的のために動いています。内容は言えませんが、ここにいるということはこの大陸に何かがあると私は考えています」
愛理は内容を伏せながら目的があると二人に言う。すると伊織が俺たちを雇わないかと愛理に言った。
「服装からして君はどこかのお姫様なんだろ? だったらそれなりの金は持ち合わせているんじゃないか?」
「お金ですか? 確かに持ち合わせていますが、この地域で使えるか分かりませんし……これではどうですか?」
愛理は右手の人差し指に付けていた指輪を外して伊織に渡した。その指輪を見た伊織は、一瞬考える素振りを取った。
「これは……君にとって大切な指輪じゃないのか? 綺麗な黄金の作りに宝石が散りばめられている。結構な値打ち物に見えるが」
「いいのです。ただ付けているだけではもういられないので……」
愛理のその言葉を聞いた伊織はもらっておくよと言葉を返した。茉莉はそれをどうするのと伊織に話しかけると、売るしかないかと伊織は呟いていた。
「とりあえずもらっておくよ。もうすぐ風車の村に到着するから、そこでこれからのことを考えよう。茉莉もそれでいい?」
「それでいいわよ。私たちはもう愛理ちゃんの護衛みたいなものだしね」
「そうだな。護衛として行けるところまで行かせてもらうよ」
伊織と茉莉が護衛としてと言うと、愛理が対等でいてとすぐに返した。
「その指輪で二人を雇ったかもしれないけど、私は二人には対等な立場で遺書にいて欲しいわ。誰かの下ではなく、対等な立場で私の目的を果たす手伝いをして欲しい」
「愛理……」
出雲は愛理の発した言葉を聞いて、今まで対等な人が周囲にいなかったからだろうかと思っていた。その言葉を聞いた二人は、分かったと声を揃えて言う。
「だけど、指示を求めるときはあるから」
「その時は的確な指示をちょうだいね」
「分かったわ。その時はよろしくね」
三人が笑顔で話し合っている時、出雲は長剣を眺めていた。先ほどの獣型の魔物は倒せたが、魔族という敵には長剣が効かなかった。
「さっきは倒せてよかった……技量をもっと伸ばさないと……」
出雲は揺れる荷台に体を任せながら風車の村に到着するのを待っていた。出雲以外の三人が二時間程度話していると、不意に伊織がもうすぐ到着だと周囲の景色を見ながら言う。
「そろそろ村が見えてくるぞ。降りる準備をしておけよ」
「分かりました。出雲は大丈夫?」
「大丈夫。長剣は持ってるよ」
出雲と愛理はお互いに確認をすると、五分もしないうちに風車の村に到着をした。風車の村はその名の通り、風車が村のあちこちに設置してあり、村に流れる川や建設されている木製の建物が特徴的であった。
「この村は農業が盛んでね。それほど発展をしているわけではないが、穏やかな村として有名だ」
「そうね。だけど何もない村だけど」
「そう言うなって。ここらじゃこの村しかないんだから、物資の補給とか換金をしないと」
馬車に乗りながら伊織と茉莉が話していると、出雲が本当に別の大陸に来ているんだなと小さな声で呟いていた。愛理はこれからどう動こうかしらと一人で考えていると、馬車が村の入り口に到着したようであった。
「ほら、風車の村に到着したぞ。代金は五倍増しで頼むぞ」
「ぼったくり過ぎるだろ! 本来の料金で頼むよ!」
「あんな思いをさせられて、通常代金じゃダメだろ。俺は死にかけたんだぞ!」
伊織と御者が揉めていると、愛理が待っててと二人に言った。
「茉莉さん一緒に来てください。換金するお店を教えてください」
「換金? 分かったわこっちよ」
愛理は茉莉を連れて村の中にある換金事業も行っている道具屋に向かった。二人が村の中に入ると、伊織と御者は静かに帰りを待つことにした。
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