「十分くらい経過しているけど、まだ時間かかるのか? 換金ってそれほど時間が必要だったか?」
「トラブルでも起きたのか?」
「俺が見てきましょうか?」
出雲が行ってきますと言った瞬間、愛理と茉莉の姿が見えた。茉莉は何かが沢山詰まっているような袋を二個持ち、愛理が一つ袋を持っていた。愛理は大声で持ってきたわよと伊織に向けて叫ぶと、小走りで御者の前に立った。
「これでいいわよね? 伊織さん、この中から五倍の料金を取って」
「分かった」
伊織はそう言い、愛理の持つ袋の中から料金分の金貨を取って御者に渡した。御者は確かに受け取ったと言うと、馬車に乗り込んでその場から去っていく。
「揉め事に巻き込んですまなかったな。とりあえず村にある喫茶店にでも入ろうか」
「分かりました。行こう愛理」
「そうね。行きましょう」
出雲と愛理は先を歩く伊織と茉莉の後ろに付いていく。風車の村に入った出雲は、村の穏やかさと農業に勤しむ人々を見て、別大陸の人たちを見ていた。
「別大陸の人たちも同じように暮らしているんだな。世界は広いんだ……」
出雲が周囲を見ながら歩いていると、伊織が村の西側にある商店街と思える小さな商業エリアに向かった。そこのエリアの一角にあるカフェと思える店に歩いて行く。
「この地域で一番ここのカフェのオムライスが美味しいんだよ。あ、ちなみにお茶も美味しいよ」
「そうなのよ。私も伊織に言われて嘘だと思って入ったら、予想以上に美味しくて、この村に静養にたまに来るほどよ」
茉莉も絶賛するその美味しさとは何だと出雲と愛理が考えていると、目の前に古風な佇まいの店が見えた。その店の入り口前には、立て看板で風車のカフェと書かれている。
「ここが一番おススメのカフェである風車のカフェだ! 入ろう!」
伊織は意気揚々とカフェの中に入る。出雲たちも木製の扉を開けてカフェの中に入った。すると耳に心地が良いBGMが入って来るのと同時に、趣がある木製の壁に机や椅子など統一感がある家具が置かれていた。伊織は窓側の四人掛けの席の椅子に座ると、出雲たちを手招きした。
「ここに座ろうぜ! ここから見る村の景色が最高なんだぜ」
「伊織はいつもその席に座るわね。確かに底の席から見る景色は最高なのは認めるわ」
茉莉が外を見ながら椅子に座ると、出雲と愛理も外を見た。すると村に流れる川やその川の側で遊ぶ子供たちの姿が見えた。
「確かにここの席は最高ですね。ほっこりする気持ちになります」
「そうね……あれが一種の幸せなのかもしれないわね……」
出雲と愛理が目を伏していると、伊織が話しを始めようと二人に声をかけた。
「おっと、話をする前に飲み物だな。マスター! いつものを四人分頼むよー!」
伊織が声を張ってマスター席から注文をすると、奥の方にあるカウンターに立っている初老の白髪の男性が、分かったよと渋い声で反応が返ってきた。
「飲み物が来るまで待とうか。俺のおすすめは美味いぞ!」
「あれを頼んだの? 最初は美味しく感じないんじゃないかしら?」
「いいんだよ。これから一緒に活動をするんだから、俺の好きなものくらい知ってもらわないとな」
「そういうものかしら?」
伊織と茉莉が話していると、カフェのマスターがコップに入っている四人分のお茶を持ってきてくれた。一人ずつ目の前に置かれると、伊織がありがとうとマスターにお礼を言った。
「ゆっくり寛いでくれ」
そう言ったマスターはカウンターに戻った。伊織は飲もうと言うと、ゆっくり飲み始めた。
「この渋みも相まって美味いんだよなー。どうだ? 美味しいだろ?」
伊織が出雲と愛理に言うと、出雲は一口飲むと吹き出してしまった。
「な、何この味!? 初めて飲んだ!?」
「うぅ……初めての味だわ……でも、意外と美味しいかも……」
愛理は自身の口元を抑えて一瞬顔を歪ませるも、二口目を飲むと美味しいのではないかと思ってきていた。
「この渋みが意外と美味しいし、これってもしかして抹茶?」
愛理が抹茶と言葉を発すると、伊織がそうだよと笑顔で答えた。出雲は抹茶ってこんな味なのかと思いながら眉間に皺を寄せて飲み続けていた。
「お茶の種類の一種だよ。作り方が少し違うんだけど、それだけでここまで美味しいから俺は好きなんだ」
「そ、そうなんですね……」
出雲は何度か咽ながらも抹茶を飲み切った。出雲が飲み切ったのを見た伊織は、話を始めようかと言い始めた。
「君たちがどこから来たかは、話してくれるまでは聞かないさ。これからどうするかを聞かせてくれ」
「分かりました。考えていたことをお話しします」
愛理は伊織と茉莉の目を真っ直ぐに見て考えていることを話し始めた。
「私はある目的のためにこの大陸に飛ばされてきました。隣にいる出雲は私を守る騎士です」
「騎士ねぇ……騎士にしちゃまだまだ未熟なように感じるけど」
「これからでしょう。茶々をいれない」
伊織は茉莉に怒られてしまうも、続けてと愛理に言った。愛理は軽く頷くと、お父様に伝承を頼りにするんだと言われましたと言った。
「伝承ね……様々な伝承がある中でどの伝承なんだ?」
「私もどの伝承か悩んでいましたが、昔にお父様に聞かされたことを思い出しました」
愛理はそのことを出雲を含めた三名に伝えようと、不意に置かれたコップに入れられた水を一口飲んだ。
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