「だから、今の曲はおれの前の曲だったけど、次からはメンバーみんなで作った曲ばっかです。きっとハマると思うから、心して聴くように!」
ギュイン! と淳が一発音を入れる。流石はインプロの天才。アドリブなんかはお手のものだ。暗いライヴハウスの中、赤や青の閃光が行き交い、ドでかい音と生の客のノリ、オレ達のテンション、全てが良い。この感じ、全部最高だ。
一息ついて光夜を見る。そして四つ、ハイハットを入れて変則エイトビートをブッ叩き始める。
「Drums!Ryou!」
光夜が叫ぶ。クラッシュシンバルとライドシンバルを叩き、左手でスネアを叩きつつ、右手でスティックをクルクルと回す。嬉しいことに客から『りょおー』と黄色い歓声が聞こえてくるじゃないか。 次いで貴のベースが入って、スラッピングのショートソロを弾き出す。
「Bass!Taka!」
貴は腰を落とした態勢で、クルッと一回りしてワンステップ。右手を敬礼のように眉の上に当て、その手を払う。ちっくしょー、カッチョイーなこの野郎、オレも動けたらなぁ!
続け様にナチュラルハーモニクスのリフを弾きながら淳が入って来る。
「Guitar!Jun and Show!」
間髪入れずに少平が一弦の一九フレットのチョーキング。淳と少平で背中合わせになって、オープニングのリフを腰を降りながら弾く。さっきまでのおろおろしまくってた少平は一体何処へ行ったのやら。
「Oh Vocal!Kouya!We are The Guardian's Blue!Ok!Get Ready DRUM KNUCKLE!」
自分の紹介だけヤケに気合入れまくりの光夜。ま、ボーカルなんだし存分に。
オレの曲も終わり、一度ステージの証明が落ちる。とは言っても最前列の客は二メートルくらいしか離れてないから、ステージ裏に回ったのも丸見えだ。さて、ここはちょっとした遊び心。パートチェンジの準備をする。布陣はこうだ。ギターがオレと光夜。少平がボーカルで、淳がベース。貴がドラムになる。
「なななんかきんちょーしちゃうなぁ!唄うのって凄く勇気要りません?」
「へーきへーき、このノリで唄い切っちゃえばなんも怖いものはない!」
オレ達は準備を終えると再びステージに上がった。青く、淡い光がステージを包み込んでいる。
「さてちょっと箸休め!次はこのパートで演ります。このパートでも最高のロックが出来るってことを証明して見せるから、みんな聞いてくれよ!」
おーおー、光夜の奴出来上がってんな。ま、二年ぶりのステージだもんなぁ。気持ちは凄ぇ良く判る。
「この曲はベースの……今ドラムだけど、貴が創ったんだ。たぁか!何か言いたいことある?」
光夜が貴にマイクを向けると、貴は無言でブンブンと首を横に降った。
「え、照れ屋?……聴けば判るって?よっしゃあ、んじゃ行くよ、ROCKIN' ROLLING!」
貴のビートが走りだす。淳のベースが敷かれて、オレと光夜がリフを乗っける。
こいつのドラムは基本がしっかりしてるから、多少ギターが暴れてもすぐに音を乗り直させることが出来る。
――ギター片手にステージ上がれば ONE NIGHT ROCKN' STAR
ちょいとイカしたあの娘も今日も特等席さ
狂ったドラムにHEARTを乗っけて OH OH OH ON MY BEAT
ちょっとイカしたギターで今夜も OH WOW
ROCKIN' ROLLING ROCKIN'ROLLING 踊り狂え CRESCENT NIGHT
ROCKIN' ROLLING ROCKIN'ROLLING 唄い狂え ONE NIGHT ROCKIN' ROLLING
マイク片手に踊りまくれば ONE NIGHT ROCKN'STAR
がなるギターに合わせて SHOWT SHOWT SHOWT SHOWT SHOWT
気取った仮面は捨て去っちまえよ BABY
ちょっとイカしたオイラと今夜は OH WOW
ROCKIN' ROLLING ROCKIN' ROLLING 踊りだそう CRESCENT NIGHT
ROCKIN' ROLLING ROCKIN' ROLLING オサラバだぜ LONLEY BABY
ROCKIN' ROLLING ROCKIN' ROLLING 踊り狂え CRESCENT NIGHT
ROCKIN' ROLLING ROCKIN' ROLLING 唄い狂え ONE NIGHT ROCKIN' ROLLING――
「サンキュー!」
よしよし、ミスはなかった!上出来だな。バッキングに回った光夜もとオレを見て笑う。ま、この曲だけはちょっとした遊び心だしな。楽しかったぜ。
「ちょっと待ってろよ、みんな!」
光夜がそう言うと、オレ達は再びステージ裏に回り、急いで元のパートに戻る。
「少ちゃん、すっげぇじゃん、最高!」
貴が少平の首に腕を回して喜んだ。客の方も予想以上に盛り上がっている。礼美さんの狙い通りなのか?良くは判らねぇけど。とりあえず見に来てくれた奴らは、オレ達と同じ、最高に愛すべきバカどもだ。
「さ、戻ってスパート!ラスト四曲!」
「ぅおおっしっ!」
再びステージに戻ると、客がめちゃくちゃデカイ歓声と拍手で迎えてくれたのには、ちょっとばかり感動した。
「えー、みんな本当にどうもありがとう。今日からおれ達 The Guardian's Blueは音楽シーンを突っ走っていくんで、みんな宜しく!ここでもう一度メンバー紹介をしときます。まずはドラムの諒ちゃん!」
光夜のMCの後にまたしても女からの『諒ー!』という声が聞こえて来た。女にきゃーきゃー言われるための音楽じゃねぇ、だなんてオレはどっかの気取ったロックスターみてぇなこと言わねんだ。素直に嬉しいぜ!
なんて考えてると光夜がオレにマイクを差し出して来た。
「あ?喋んのかよ」
そう言ったオレの声は既にマイクが拾っていた。
「ども、谷崎諒です。ドラムやってます。今はくだらねぇ曲が大流行りだけど、そういう売れる曲はやる気ないんで、そのつもりで聞いてくれれば嬉しいです」
柄にもなく敬語なんて使ってやがんの、オレ。ちょっとT.R.Eセンシティヴとか、OCEAN MUSICのお偉方っぽい連中のの視線が痛い様な気がするが、別に売ろうとか売れセン創ろうって訳じゃねぇんだからいいじゃねぇか。
「あぃさんきゅう。次、最年少、少ちゃん」
オレからマイクを取ると、それをそのまま少平に渡した。当然ながらオレよりも黄色い声援が多く飛び交う。
「あ、ギターの草羽少平です。その、一七才っす。一生懸命ロックやってます。よ、宜しくお願いします」
耳まで真っ赤にして少平がマイクを返す。きゃああっ!かわいいっ、なんて声も聞こえて来た。彼女がいるなんてこと知らねぇんだろうな。……関係ねーか、んなこたぁ。
「うい、次。もう一人、ギターの淳。インディーズじゃ有名だったから知ってる人もいるかな」
「えーと、大沢淳也です。少と一緒にギターやってます。快く送り出してくれた仲間に恥じない様に、きっとみんなが気に入る様なロックやるんで、期待しててください」
笑顔で言った淳に、拍手と歓声が送られた。
「最後、ベースの貴、よろしく」
光夜は言って、貴にマイクを渡した。
「……え、み、水沢です」
貴はそれだけ言って光夜にマイクを返す。MCとかコメントみたいなのは昔から苦手だったからな、貴は。それでも黄色い声援は飛んでいる。ま、誰でもいんだろうな、盛り上がれば。
「え、そんだけ?いつもはそんなおとなしい奴じゃないのにねぇ。んじゃ最後におれから。まずおれ達が樹崎光夜とバックバンドじゃないってことだけは、ちゃんと知っておいてください。おれ達は、諒も少平も淳も貴もThe Guardian's Blueの一員です。だから聞いてください、樹崎光夜の歌じゃなく、The Guardian's Blueのロックを—―」
光夜はそう言って、客に背を向けた。軽く頭を振ってリズムを取る。淳と少平が流れるようなリフを弾き始める。貴のベースが滑り込むような入り方をし、ドラムはハイハット中心のビートを刻み始めた。
「MEDITATION……」
少平と淳のギタリストコンビが創った曲だ。ソロやリフもメロディアスに出来上がっていて当然ベースもビートを刻んでりゃ良い訳じゃあない、ベース泣かせの曲でもある。その後、REFLEX Low Down、Keep on blueとクリアし、そしてラストソング。
オレ達、The Guardian's Blueのファーストライヴのクライマックスだ。
――Pain of the past still hurts me inside. 尖った心を癒してくれる筈のお前は 俺の前から霧と共に消えた
Calling to me inside my heart what I can do. 偽りの言葉狂気の優しさから逃げ出す事も出来ずに
心は闇に貪られ盲目になって叫ぶ俺がいるだけ――
ラストソング、APOCALYPSE。二〇分を越えるロングナンバーだ。組曲のような曲構成で、スロー、スピード、ギターソロ、ベースソロ、ドラムソロ、ピアノソロ、果てはインプロギターソロまで、もはや何でもありの光夜の大作だ。光夜の歌声が響き、次いで、コードを崩したアルペジオをギターコンビが弾き始める。淳がメロディーラインに移行、少はワンオクターブ上げて、アルペジオを続行。ここのタイミングは難しいらしくて何度も練習してたなぁ。
貴のベースがゆっくりとスライドを続けながら入って行く。ここでオレはスネアを思い切りぶっ叩く。そのままタムからフロアへ三連打のロール。
一分弱のオープニング。流れるギターの旋律。悲しみの調べの様な……。
――俺の存在はお前の束縛を意味する様に お前は俺の前から消えた
Red hot sea walking in the darkness
束縛を解いてももうお前の姿は現れない……二度と……――
唄いながら光夜はステージの上手にあるピアノに着いた。壮大で優しく穏やかな旋律を奏で始めたその姿は、まるで古の芸術家のようなイメージさえ思い起こさせる。
これがあの樹崎光夜だなんて、こんな光夜が光夜の中にいたなんて、オレは今の今まで全然知らなかった。元々がクラシック畑の人間であることは知っていたけれど、それでもソロ時代の光夜はこうした芸術家然とした曲はやっていなかった。
ゆっくりと、ゆっくりとピアノの旋律が流れ、オレは口の中でカウントを始めた。
三、二、一……。
思い切りクラッシュシンバルを叩き、それを合図にギターコンビのハイスピードバッキングが入る。光夜は再び立ち上がり、オレはツインベースドラムを踏む。
――夢か現実か分からない世界で闇と戯れ 希望は絶望に夢は悪夢と化して 闇にこの身体を差し出して
Don't of pain Idon't want to see
『Stop! stop dying me red Ican't take any more You are too cruel! Stop! piearss stop!』
真実の道が見え始めた 闇の中でおまえの声を聞いた『何故?』
その意味も掴めずに その道を歩きたいと願う俺がここにいる――
ここから曲調が急変し、スローテンポに移行する。光夜は再びピアノに着いて高音の連鎖。
ピアノの高音は聞く人に恐怖心を与えると言われているらしい。ライヴハウス全体が恐怖の旋律に包まれて行く。客は声を出すこともなくただ黙って聞いている。
息苦しささえ錯覚させるようなピアノに暖かな、乾いた感じのギターがミックスされる。アコースティックギター独特の解放感のあるメロディ。光夜のピアノソロの間にギターを持ち換えた淳と少平の間奏だ。
――止まった刻の中色あせてく写真 心からの笑顔心の壁を壊し お前は道を歩み始めた俺を見ている
今自分自身を見つめ直し 何かを見つけなくては何かをしなくてはならない刻だと
Don't be afraid move for ward one step willing mind is what I have foud atlast――
光夜の声が途切れると共に、長いブレイクを終え、貴のベースソロが始まる。それを合図に俺は再びツインペダルを超高速でキックする。少平、淳とギターが入る。
そして、光夜が……。
――闇と朝もやの中 誰も知らない明日を感じる
Black night Idon't need a black night Ican't see dark night
もう二度と知りたくない日々 もう二度となくしたくない存在
Take me back to the memory to the dream――
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