足元の悪い山道を私たちは何時間もかけて登っていった。
「ねぇねぇ、岩の城なんて見えないけどほんとにあるの……?」
「あります。魔力の気配が近づいています」
やはりリアには視認できないらしい。私にももちろんできない。でも、懐かしい土の魔力がすぐそこまで迫っているのははっきりと分かっていた。
やっとのことで頂上付近まで登ってきた。リアはミリアムを背負いながらも全く息が切れていないが、私は身体中が痛くて死にそうだった。
「いったたたた……ちょっと休憩……」
ちょうどいいところにあった切り株に腰を下ろしながら足をさすっていると、リアがクスクスと笑ってきた。
「ふふふっ、ティナってばおばさんみたい!」
「はぁ? 私たち人間がみんなリアさんみたいな体力あるわけないじゃないですか!」
ロリと言われるのも頭にくるが、おばさん呼ばわりもそれはそれでカチンとくる。私がリアほど体力があったらそもそも魔導士なんかやらずに、剣を振って冒険者をやっていたことだろう。
(全く、天の神様は不公平だなぁ……リアさんの10分の1くらいの体力でもあったらなぁ……)
柄にもなく少しヤキモチを妬いてしまった。
「じゃあ少しだけ休憩しよっか」
「言われなくても休憩してますよー!」
呑気な口調のリアに言い返しながらも私は周囲に意識を向けていた。──近い。そして大きい。魔力の気配だ。
間違いなく七天クラスの魔力だろう。辺りの空気がビンビンに張り詰めていてとても心は休まったものではない。
(前……? 後ろ? ──知らないうちに色んなところから魔力を感じるようになってる……)
それでも私は、一番強く魔力を感じる前方を凝視し、なんとか正体を暴こうとしてみた。すると、意識を向けていなかった足元に何かがポンと当たる感触がした。なんとなく視線を下げると、身長50センチメーテルくらいの小さな女の子と目が合った。
金髪で赤い目をしており、どこか浮世離れしているその子は、何も言わず首を傾げる。
「ひゃぁぁっ!」
仰天した私は切り株から転げ落ちた。その拍子に足が女の子を直撃してしまう。
すると、なんと女の子は粉々に砕け散った。
「あーっ! いーけないんだいけないんだー! ティナがやったよティナが!」
リアが何故か楽しそうな声を上げる。私の足元には女の子の破片が見るも無惨な土くれとなって転がっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! そんなことするつもりなかったんです! ちょっとびっくりしちゃっただけでその……!」
「強度に問題あり。──やっぱり、魔力の維持が課題かな」
動転する私の背後からそんな落ち着き払った声が聞こえてきた。
声の主は肩くらいまでの茶髪の少女で、黒い身体に張り付くような衣服にマントをまとった奇妙な出で立ちだった。そしてなによりその起伏の少ない身体と丸く人懐っこいダークブラウンの瞳は私の見慣れたものだった。
──七天『捲土重来』、イザヨイ・サヤ。
「サヤさんっ!」
サヤは私の視線に気づくと黒い手袋に包まれた手を軽く上げて挨拶のようなものをした。私としては抱き合って再会を喜びたい気分だったが、東邦人はリアクションが薄いので些か拍子抜けする。
「どう? さっきのゴーレムは? ──試作品なの」
「ゴーレム? さっきの女の子ですか?」
「そ。まだ脆いし小さいのしか作れないけど、自分で考えて動けるの。──ゆくゆくは喋ったり簡単な魔法を使ったりできるようにするつもり」
ほとんど人間と見紛うようなゴーレムを作れるなんて、サヤの魔法の進歩は著しいらしい。王都へ行く途中で遭遇したアメノウズメとは大違いだ。
「それにしてもまさかここが分かるなんてね……さすがティナ」
パチパチパチと拍手をするサヤはあまり嬉しそうではない。隠れていたのを見つけられたのが嫌だったのだろうか。
「山脈の麓で岩の城の噂を聞いて、あとは魔力を辿ってきたんです」
「魔力自体の認識阻害をしなきゃだめか……最初からやりなおしかなこれは」
サヤがパチンッと指を鳴らすと、私たちの目の前に巨大な岩の塊が出現した。大きな岩がいくつも重なり合うようにして建造物のようなものを作り上げている。──が、それは城と表現するにはあまりにも歪であり、几帳面なサヤらしからぬ出来栄えだった。
それもサヤがイマイチ機嫌が良くない理由の一つなのだろう。
「ここに住んでたんですね……」
「そ。──ティナ、再会早々悪いんだけど、こいつは誰?」
いきなり出現した岩の塊にポカンとしているリアを指さしながらサヤは怪訝そうな顔をした。それもそのはず、東邦帝国では獣耳に獣のしっぽをつけたアマゾネスを見ることはないのだから。警戒するのも無理はない。
「この方は、アマゾネスのリアさんです。その背中に背負われているのは先輩魔導士のミリアム先輩。二人とも私の仲間です」
「──仲間ね……」
サヤは警戒を解こうとしない。
動いたのはリアだった。彼女はミリアムをゆっくりと床に下ろすと、サヤの前に進み出る。
「あなたがティナの知り合いで七天のサヤって人?」
「……そうだけど?」
返答を聞いたリアはうんうんと頷くと腰をかがめてニヤリと笑った。刹那、リアがまとう雰囲気がガラリと変わった。
「──やっと見つけた!」
(これは……殺気!? でもどうして!?)
「危ないっ──!?」
私が警告するよりも早く──サヤが反応するよりも早く、リアが目にも止まらぬ速さで前方に飛び出す。右手にはナイフが握られており、それが真っすぐにサヤの胸元に吸い込まれていく。
──ドッ!
衝撃をともなった鈍い音が響く。と同時に真っ赤な血しぶきが舞った。
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