「だから、ティナとライムントが手を組んでいないことを証明できる?」
「そう言われても……」
サヤは先程私とライムントがやり合っていたのを見たはずなのに、完全には信用してくれないらしい。そういう慎重なところがサヤのいい所でもあり悪いところでもある。
「それじゃあ私が何故冒険者になってサヤさんを探しに来たのか、一から説明することにしますね」
「長くなりそう?」
「──とても」
私がつい半年ほど前にユリウスに雇われて冒険者になってから、本当に色々なことがあった。間違いなく私の人生の中で最も濃密な半年間だった。それを騙るのだから、それはもうかなりの時間を要するだろう。
このまま諦めてくれるかと思いきや、サヤはゆっくりと頷いた。
「いいわ、わたしも興味があるし付き合ってあげる。──立ち話もなんだから城の中で話しましょう? そこの二人を運び込むから手を貸して?」
「は、はいっ!」
私とサヤは手分けして眠り込んでいるミリアムと、ツルから解放されてぐったりしているリアを岩の城の中に運び込もうとした。しかし私の残念な腕力では人一人を持ち上げることすらかなわず、見かねたサヤが土魔法を使って二人が寝ている地面をそのまま動かすという離れ業をやってのけた。最初からそれをやって欲しかったというのは口には出さなかった。
城は大層な見た目の割に中は小さく、さながら洞窟のようだった。広さよりも丈夫さを重視した結果だろうか。
家具はほとんどなく、土でできた寝台のようなものくらいしか見当たらない。洞窟の中で暗いにもかかわらずランプの類もなく、代わりに壁の一部がうすぼんやりと光っていた。その光が、ゴーレムの魔導メダルのものであると気づくのにそこまで時間かかからなかった。
「これってもしかして……」
「そ。この城は巨大なゴーレムを集めて作られているの。並の魔法や物理攻撃じゃビクともしないし、転移対策もばっちり。これ以上ないほど丈夫な城よ?」
「おまけに……」
「いざとなったらこの城は強大な兵器にもなり得る」
「だからサヤさんにしては城の造りが不格好だったんですね!」
「そゆこと。やっぱりティナは話がわかるね。おバカなマテウスやシーハンが相手だと馬の耳になんとやらだから……」
寝台にリアとミリアムを寝かせると、地面に手を当てるサヤ。するとたちまち地面が隆起し、即席の椅子が二つ出来上がった。相変わらず便利な魔法である。
勧められるがままに土の椅子に腰掛けると、予想に反してそれはふかふかしており、木の椅子なんかよりも断然座り心地が良い代物だった。
「時間はたっぷりあるから詳しく話してくれる? なんかきな臭い匂いがプンプンするんだけど」
「ええ、ちょっと──というかだいぶこの国は面倒なことになっていて……」
私はサヤに、魔法学校を追放されてから今に至るまで、自分がどんな人生を歩んできたのかを説明した。その過程で、ゲーレ共和国のシーハンからサヤの捜索を頼まれていたことや、なんだかやたらとライムントが絡んでくること、クラリッサと会って話したこと、今王国に戦乱の兆しがあることなども説明した。
話し終えた頃には恐らく日は沈んでいたかと思われるほど時間が経っていたが、サヤはその全てを興味深そうに聞いてくれていた。
「なるほど……ね」
「信じてくれますか?」
「もちろん。ティナの頭じゃあそんなにこみいった作り話はできないのわかってるし」
「む……」
(なんだかバカにされたような気がするんですけど……!)
「で、シーハンはわたしと手を組みたいと言っているのね?」
サヤは呆れたような表情で尋ねてくる。まるで話にならないといった様子だった。
「まあそうですね……」
「わたし、ライムントのことは気に入らないけど、どちらかにつくっていうのも嫌なのよね。そもそも争い自体が無意味でやりたくない」
「なるほど……」
七天を制圧し、最強の魔導士になりたいライムント。ライムントを倒して祖国を守りたいシーハン。七天同士が手を結ぶべきだというクラリッサ。争いから逃れたいサヤ。皆それぞれの考えに基づいて動いている。
(私はどうだろう……?)
私は──ヘルマー領を立て直すとか立派な冒険者になるとか、大層な理想を並べても根本には故郷を旅立つ時に伝えられた使命があるのだ。ヘルマー領のことも冒険者のことも、それを達成するためのプロセスに過ぎない。
(そんなことでいいのかな?)
使命を考えないのだとしたら……やはりユリウスのためということになるのだろうか。
ユリウスのことを考えてしまった私はまたしても少し赤くなってしまった。ここまでくるともう完全に病気だ。
「とりあえずその子たちを見てみるわね」
サヤはやおら立ち上がり、ミリアムとリアが寝ている寝台に歩み寄った。私も隣から覗き込むようにして様子を見る。
「この子はただの魔力切れね。わたしの魔力を分けてあげればよくなるかな」
ミリアムの額に手を当てながら魔力を送り込むサヤ。私の目にはしっかりと、彼女の身体からミリアムへと流れ込む魔力の流れが見えた。
「さてと、こっちの子は……」
リアの横に立ったサヤは、リアの身体を眺め回す。
「なにしてるんですか?」
「ライムントは『呪い』って言ってた。だからその『印』を探している」
「印……?」
「そ。呪いっていうのは持続的に魔法をかけている状態だから、身体に魔法陣とか触媒とかがついてたりするの。それが『印』」
正直私は呪いに関しては専門外なので、知識がほとんどなかった。セイファート王国の中にも呪いを使う魔導士はごく稀だ。
サヤの故郷の東邦では呪いをかけたり解いたりする呪術師なる職業があるらしいので、サヤの方がどちらかといえば一日の長がある。
リアの髪をかき分けたり、耳やしっぽを触ったりしていたサヤは、おもむろにリアの服を脱がし始めた。
「なっ、ちょっ! サヤさん! さすがにそれは!」
「ん? いやいいでしょ女の子同士なんだし……」
「え、えっとそういうことじゃなくて……」
私がわたわたしているうちに、サヤはリアを素っ裸に剥いてしまった。
「あーあ……」
「あっ、ここね……! ライムントのやつ、趣味の悪いところに趣味の悪いものつけて……」
サヤの声に恐る恐るリアの下腹部を見ると、そこには──
赤黒く、見るもおぞましい文様が刻まれていた。
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