剣は振るえないけどその代わりにフライパンを振るってもいいですか?

〜貧乏領地に追放された最弱冒険者は胃袋を掴むのだけは得意のようです〜
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96. 作戦会議

公開日時: 2021年2月4日(木) 08:17
文字数:2,748

 ☆ ☆



「アルベルツ侯爵を倒すいい作戦を思いついたわ!」


 翌日、すっかり元気になったイーイーは円卓の間で元気にそんなことを言い始めた。


「どんな作戦ですか?」


 側近の長身男ルオシェンが尋ねると、イーイーは絶壁に近い胸を精一杯張りながら説明を始める。


「七天を倒すのよ!」


 自信たっぷりに言い放った言葉は、しかし一同はあまり芳しい反応をしなかった。むしろ、「何を今更分かりきったことを……」とでも言いたげな雰囲気を感じる。


「……で?」

「で? じゃないわよこのサラシ乳が! 以上よ以上!」


 イーイーは地団駄を踏みながらサヤを睨みつけ、機嫌を損ねてしまった。するとサヤは肩をすくめる。


「呆れた。そんなの誰でも思いつくことじゃない。問題は『どうやって七天を倒すか』よ」

「こちらには七天が三人もいるのよ? 向こうは二人。余裕よ余裕!」

「あの、私を戦力の数に入れないでいただきたいのですが……」


 売り言葉に買い言葉でイーイーが「七天に七天をぶつける」というニュアンスの発言をしはじめたので、私は慌ててそれを遮った。そもそもとしてライムントとマテウス相手に私、シーハン、サヤの三人では分が悪い。



「ふん、ゲーレはこういう時、数で圧倒するのよ! こちら側には他にも優秀な人材がいくらでもいるじゃない?」


 そう口にしながらイーイーは一同の顔をぐるりと見渡した。


「三人で勝てなかったら六人でどう? ──ミリアムと、あとはタマヨリヒメとアメノウズメだっけ? あなたたちは七天のサポートに回りなさい」

「わたくしがサポート!? 皆さんがわたくしのサポートをするのではなく!?」

「あーもう、どっちでもいいわよ!」


 昨日裸の付き合いをしただけあって、イーイーはミリアムの扱いを心得ているようだった。ミリアムの抗議にも面倒さそうに応じる。


「シーハン、サヤ、ティナ、タマヨリヒメ、アメノウズメの五人でミリアムのサポートをしなさい!」

「了解ですわ! まあ、あんな雑魚何匹集まろうとわたくし一人でも小指でちょちょいのちょいですが、それでは皆さんの顔が立ちませんものね! 心の広いわたくしは皆さんの活躍の場を与えてあげますわよ? 感謝することですわ! オーッホッホッホ!」


 三人の七天を指揮下に収めるような形になってしまったミリアムは、完全に図に乗って高笑いを始めてしまった。さすがにここまで上機嫌なミリアムは、私がミリアムと出会ってこの方数回しか目撃したことがない。レアだ。



「あなたたち六人は、ライムントとマテウスを上手くおびき出して、できるだけアルベルツ侯爵から引き離すこと。無理そうなら仕留めなくてもいいわ。──倒すことよりもできるだけ時間を稼ぐことを考えなさい」

「あら、イーイーさん。わたくしの実力を過小評価していただいては──」

「──倒せそうなら倒しなさい?」

「──了解ですわ」


 ミリアムは渋々口をつぐむ。

 いつの間にか私の隣に近寄ってきたリアが「あのイーイーって人、ティナよりすっとこどっこいの扱いが上手いね」などとコメントしたので、私はそのネコ耳を思いっきり引っ張って特に悪意のないリアを無駄に涙目にさせるなどしていた。


「その間にルオシェン、ユリウス、ユキムラ、キャロル率いる本隊が四手に分かれてアルベルツ侯爵の本陣へ強襲を仕掛けるわ! そのためにまずは侯爵たちを森の中へ誘い込む必要があるわね。──囮はこのアタシが引き受けるから、しっかりやりなさいよ!」

「おぉ、お嬢様自ら囮役を買って出られるとは……! いけません! お嬢様は大切なゲーレの後継ぎで……」


 側近のルオシェンは、イーイーの言葉に慌てふためいた様子で制止した。しかしイーイーは黙って首を横に振る。


「なぜ……」

「なぜ? 適材適所よ? 自慢じゃないけど、撤退指揮に関してアタシよりも上手くできる者はいるかしら? この前あのライムントの魔法を受けながらも部隊を立て直して被害を最小限に抑えながら撤退させたのはアタシよ? それに、アルベルツ侯爵なんてライムントがいなければ恐るるに足らないわ!」

「その通りです! 魔導士のいない侯爵軍など所詮烏合の衆。このユキムラが必ずやイーイー様が追いつかれる前にアルベルツ侯爵を討ち取ってみせましょう!」


 イーイーが啖呵を切るとユキムラも深く頷きながらその言葉に続く。昨日の喧嘩が嘘のようだった。──聞けば、女性陣が温泉に入った後、こっそり男性陣も温泉で親睦を深めていたらしく、こちらの結束も強まっているような気がする。



 その時、一つの手がスッと上がった。

 手の主はユリウスだった。イーイーに促されて立ち上がったユリウスは、徐に口を開いた。


「作戦に異議はない。俺が話し合いたいのはこの戦いが終わった後の事なんだが……」

「そんなの勝ってから考えればいいでしょ?」

「いや、そうもいかない。なにせこの戦いには『大義がない』からな。──つまりこのままだと俺たちが賊軍──つまり悪者になってしまう」


 ユリウスの言葉を理解できているのは恐らくサヤとパトリシア、ユキムラ、ルオシェンだけだろう。他の面々は「どういうことだろう?」とぽかんとした表情をしている。



「──要するに、俺たちがアルベルツ侯爵を討つ理由が必要なわけだ。『領地を侵略してきた』という理由は、現段階でアルベルツ侯爵が王都から動かない以上使えない。ましてや今のヘルマー軍はゲーレと東邦という二つの外国が混ざった混成軍だ。セイファート王国の立場に立って考えれば、外敵は俺たちということになりかねない」

「そうね……オルティスだって、どうせ『セイファート王国内の内乱を鎮めるために侯爵から要請があったから参戦した』とでも言えばお咎めなしだろうし」

「なによりアルベルツ侯爵の元には王位継承者である、前国王の娘さんがいらっしゃいますからね……こちらもなにか対抗するような存在を立てなければ……」


 ユリウスだけでなく、サヤとパトリシアも同じく不安を漏らす。とはいえ、誰にも解決策は浮かんでいないようだった。


「なによ! 結局こちらからは仕掛けられないってわけ!?」

「そんなのあんまりですわ!」


 イーイーとミリアムが悲痛な声を上げる。


「いや、一つだけ手があります。──もう一人の後継ぎ候補。前国王のお孫さんを立てればいいのです。ただ、アルベルツ侯爵が王宮を制圧した時にお孫さんは行方不明になってしまいました。──探しますか?」

「そんなことをしている時間はない。それに侯爵のことだから孫とやらは既に始末されているだろう」


 パトリシアの提案にユリウスが首を振った時、俯いて考え込んでいたサヤがなにかに気づいたように顔を上げた。


「パトリシアだっけ? その孫って、行方不明なのよね?」

「そうですね」

「死体は見つかってないのよね?」

「今のところは」

「じゃあ──その子ってどんな見た目してるの?」

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