隣の席の美少女は魔女専門の殺し屋でした。

この世界では『強さ』が全てだ
しろくまおとこ
しろくまおとこ

隣の席のかっこいい女子

公開日時: 2022年6月18日(土) 18:11
更新日時: 2022年6月18日(土) 18:31
文字数:2,283

息抜きに書いた小説です。マイペースに投稿していきます。進捗状況などはtwitterの方にあげています。twitterにはユーザーページからとべるので、覗いて見てください。

(うーん、かっこよくない)


|碧(あおい)は鏡に映る、真新しい制服に身を包む自分を見てため息をついた。






俗に言う女顔。低身長。声は高い。筋肉が少なく細身。碧は、中学生になる頃には自分が『かわいい』という部類に入ることに薄々気がついていた。

初めのうちは、女子には「かわいい」と持て囃され、先輩には可愛がられていたため、そんなに悪い気はしていなかった。


しかし、中学三年生、つまり思春期に突入した頃、やはり碧も男である。女子には「かわいい」よりも「かっこいい」と言ってもらいたい。そう思うようになった。


せめて高校生になるまでにはかっこよくなりたい。そう思い、高校受験が終わってからは毎日筋トレをして、毎朝牛乳を飲んで……。


碧なりに頑張ったが結果は得られず。遺伝なのだろう。両親も親戚も皆、小柄。身内である碧が言うのもなんだが、親戚一同かわいいという部類に入るのだから。


平凡な中学生男子には遺伝に抗う術などなかった。


そんな碧の気持ちなど関係ないと言わんばかりに時は経ち、中学卒業時と何も変わらぬまま碧は高校の入学式の日を迎えた。



入学式が始まるまで、各自教室で着席して教師の指示を待つように。これは入学式の前に送られてきた文書に書かれていた。


その文書の通りに碧は自分のクラス、一年A組に向かう。教室にはまだ誰も来ておらず、碧が一番乗りのようだった。

出席番号順に机が並べられている教室に足を踏み入れ、自分の席を確認する。窓際の一番後ろの席、主人公席と言われる場所だ。


しかし、高校入学当日まで結局なにも変わることができず落ち込んでいる碧には、自分の座席の場所などどうでもいいことである。


碧は自分の席に座ると、頬杖をつきながら先生を待つ。


ぼーっと空を見ていると、隣でカタリと椅子をひく音が聞こえた。反射的に隣を向く。


そこには、ボサボサの髪を乱雑にゴムでまとめ、目の下には大きな隈ができている少女がいた。しかし、首の上についている顔は誰もが認めるであろう、きれいな顔立ちだった。


(もったいないな)


きっと誰もがそう思うだろう。もしこれで身だしなみにもう少し気を使っていたなら、かなりの美少女だっただろうから。


視線を感じたのか、彼女が碧の方を見る。


「何?」


一瞬なにを言われているのか碧はわからなかったが、数秒後に自分に問いかけているのだと理解した。


「えっ、と、き、きれいだな、と」


その場に沈黙が流れる。すぐに碧は自分の失言に気がついたが、一度口から出た言葉は取り消せない。


(うわあああ! 初対面で「きれい」だとか絶対にキモいって思われた!)


目に見えてうろたえる碧を、彼女は一言でぶった切る。


「うざっ……」


その言葉は、碧に大ダメージを与えるのには十分だった。


彼女はそんな碧を気にもとめず、いきなり机に突っ伏す。数秒後に寝息が聞こえてきた。


再び沈黙が訪れ、碧はもう一度空を見る。空を見ているように見えて、内心これから先の不安で押しつぶされそうでなにも目には入っていないのだが。


突然、耳を劈くような警報音が教室の静寂を切り裂く。


『魔女の侵入を確認しました。新入生は速やかに教室に戻りなさい。可能な限り教室の施錠を行い、自分の席で待機すること』

警報音とともに、魔女の侵入を知らせる校内放送が流れる。



魔女。魔法を使える女性のことを指す。魔力を持つ女性は約一万分の一の確率で産まれると言われており、魔法の実態は未だ不明。


ただひとつ言えるのは、魔女は魔力により超人的な力を行使することができ、もしその力を悪用すれば、簡単に人の命を奪えるということである。



碧は指示通り窓の施錠をするために席を立つ。窓のサッシに片手を置き、もう片方の手でクレセント錠を手前に回そうとした時だった。


「伏せろ!」


後ろから怒声が聞こえた。それと同時に碧の手が勢いよく後ろに引かれる。急なことにバランスを崩し、仰向けに倒れ込んだ碧は、目の前を通る光線を見た。


初めて見た碧でさえわかった。これが魔法なのだと。


その光は、どこか危ない魅力を孕んでおり、まさに魔法と呼ぶのに相応しいものだった。


上の空だった碧は、ハッとする。



あの光線の軌道上に隣の席の彼女がいる。



碧は焦って彼女の席の方を見る。そこには、空中に魔法陣を描く彼女がいた。


魔法陣を描けるのはかなり高度な魔法を扱える魔女だけ。碧は呆気にとられた顔で彼女を見る。


魔法陣を書き終えると、彼女はブレザーの胸元のポケットから黒い手帳を取り出す。


「特Aクラス戦闘員、叶野かのう せい。緊急事態発生と判断し、魔力使用権限を行使する」


そう高らかに宣言すると、彼女は魔法陣に魔力を込め碧と彼女がすっぽり収まるような、小さな結界を創った。


「殺し屋だったんですか!?」


思わず碧は聞いてしまう。彼女のような魔女と戦う者を一般人は「殺し屋」と呼んだ。その呼び名は、彼女らが容赦なく仮にも人である魔女を殺すことから来ている。


「お前、入学式終わったら私についてこい」

「へ?」

「私は顔を見られた状態で魔力を使用したからな。お前の記憶を消さないといけないんだよ」


彼女、叶野惺は淡々と述べる。だが、一般人の碧に「記憶を消す」などという言葉、理解出来るはずがない。


「消す? 記憶を……?」

「そう言ってるだろうが、耳ついてるか?」


外に向かって攻撃を放ちながら惺は答える。さっき光線を放った魔女に向けての攻撃だろう。窓ガラスは無惨に砕け散り、今も現在進行形で窓ガラスは被害を受け続けている。


戦闘も終盤に差し掛かっているのか、外からこちらに向けて放たれる攻撃の数は目に見えて減少していた。惺が今までで一番強い魔法を放ったと同時に戦闘は終了した。

一話目を最後まで読んでいただきありがとうございます。

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