雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

可愛ければ狡猾でも好きになってくれますか?

公開日時: 2021年10月24日(日) 22:06
文字数:1,444

 伊達先輩と豊洲の映画館で映画を見終わった。

 もともと見たかったSF映画で、期待通りの面白さで満足だった。

 なんたって、伊達先輩のおごりだし。


 そして、喫茶店でお茶でもしようということで、映画館と同じ建物にあるカフェでも入ろうということになった。

 そのカフェは海の見える洒落たカフェだった。


 伊達先輩はケーキと紅茶、僕もケーキとジュースを注文する。


 僕らはケーキを食べながら映画の感想とか世間話をして過ごした。

 夢中で話をしていると、もう夕方となっていた。


「ちょっと、公園を散歩しない?」


 伊達先輩が提案してきた。


「いいですよ」

  

 僕はそう答えると、二人で映画館の建物前、海の見える公園を少し散策する。伊達先輩は岸壁の柵に腕をついて海の方を向いた。僕もそれに合わせて海を見つめた。


 しばらく海を眺めていると、伊達先輩が話しかけて来た。


「武田君は将来の進路とか考えているの?」


「いえ、まだはっきりとは」


「そう。2年になったら、理系文系のクラス分けがあるけど、1年の2学期には担任から希望を聞かれると思うわよ」


「興味のあることとか、あまりないので、どうしようかな…」


「まあ、夏休み中に考えればいいわ」


 夏休み中に簡単に決められるだろうか?


「伊達先輩は進学するんですよね?」


「ええ」


「やはり東大…、とか?」


 伊達先輩の両親は東大卒、お姉さんは東大在学中だそうだ。


「私は東大には興味ないわ。前に言わなかった?」


 そうだったような気がする。


「じゃあ、狙っている大学はあるんですか?」


「面影橋大学ね」


 面影橋大学と言えば、私立のトップクラスだ。さすが頭の良い人は狙う大学も違う。


 伊達先輩は続ける。


「ただ、学費は自分で出さないといけないのよ。1年浪人して、その間バイトで稼いで入学金を貯めようかなって思っているわ」


「先輩の家って、お金持ちですよね?」


 伊達先輩は金持ちが多く住んでいる地域に住んでいるので、おそらく彼女の家も金持ちなはずだ、学費ぐらい楽勝で出そうだが。どういう事だろう?


 そう言って伊達先輩はうつむいて言う。


「まあ、ちょっと家庭の事情でね」


 そうなのか。

 

 家庭の事情という事なら、これ以上深く追求しない方が良いと思って、

「大変そうですが、頑張って下さい」

 そう言って、僕はこの話を打ち切った。


 学費を自分で稼ぐとか、伊達先輩はやっぱりすごい。僕にはできそうにない。

 しかし、自分も進路ぐらいはどうするか、ちゃんと考えた方が良いのかもしれない。

 

 うーん、と唸って、目を閉じて少し考える。


 しばらくそうしていると、突然、頬に柔らかく温かい感触がした。

 僕は驚いて、目を開けて伊達先輩の方を向いた。伊達先輩が僕を見つめていた。


「え、え…、今…?」


 頬にキスされた…、よな?


「生徒会長選挙で嫌な気分にさせたお詫びよ」

 そして、伊達先輩は後ろを振り返って言った。

「そろそろ帰りましょうか」


「あ…、はい」


 僕は頬とはいえキスされたことに、困惑していた。

 一体、伊達先輩はどういうつもりなのか? 本当にお詫びという理由だけ? お詫びでキスするか?

 帰りの地下鉄の中では、僕は悶々とした時間を過ごした。


 地下鉄は護国寺駅に到着、伊達先輩とは改札で別れの挨拶をした。


 僕は自宅に戻り、自室のベッドに体を投げ出す。

 そして、伊達先輩はどういうつもりだったのか、しばらく考える。


 いや、キスぐらいで動揺してはいけない。

 伊達先輩は狡猾だ、僕の事を籠絡してまた利用しようという事なのかもしれない。

 きっとそうだ。彼女相手に油断は禁物だ。

 危うく騙されるところだった。


 僕は深いため息をついた。

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