放課後。
僕は、校舎の4階、端の端、理科準備室でもある歴史研の部室にやって来た。
毛利さんは図書委員の仕事でいない。
僕は本来なら部室に来る必要はないのであるが、今日は、新聞部の支倉君が歴史研の新入部員を探すのを手伝ってくれるということで、待機している必要があるのだ。
今日は、確か“隣人部”の設立希望メンバーと引き合わせてくれるんだっけ?
隣人部ってなんだ? どういう活動をしたいんだろうか?
15分程、スマホをイジって待っていると、支倉君がやって来た。
「武田先輩、お待たせしました! 1年の教室に集まってもらってます!」
「じゃあ、行くか…」
僕は重い腰を持ち上げた。
支倉君に誘導されて、僕は目的の教室にやって来た。
教室には男子生徒が1人と、女子生徒が3人いた。
彼ら、彼女らはお互いに話をして待っているという訳ではなく、それぞれがスマホを見たり、本を読んだり、ゲーム機で遊んだり、1人でブツブツ言ったりして別のことをしていた。
仲悪いのか?
いや、仲が悪い者同士が一緒に新しく活を作ろうとするわけないよな…。
「来ましたよ!」
支倉君が声を掛けると、隣人部希望の4人はこちらを振り返って。
それぞれが、小声で「どうも…」みたいな覇気のない感じの返事をして来た。
僕と支倉君が適当な席に座ると、僕は話を始める。
「ええと…」
隣人部が部活として適正かどうか話を聞いて、僕が審査するっていうことで集まってもらってもらってるんだよな。
とりあえずは、整合性を合わせるために話を切り出さないと。
「隣人部ってどういう活動をするの?」
「友達を作る部です」
1人でブツブツ言っていた髪の長い女子生徒が答えた。
「そうなの…? それって、部活にする必要ある?」
僕は尋ねた。
「部活にする必要が無いという理由がありますか?」
女子生徒は僕を睨んで言った。
「うーん…、理由が明確でないよね…。ま、まあ、理由はともかく…、部員は5人以上が必須なんだよ。最低限なんとかもう1人見つければ、生徒会としては検討出来るけど」
「友達がいなくて部を設立したい私たちが、どうやってもう1人見つけろと言うんですか? 友達、いないんですよ?」
友達がいないって、そんなに強調しなくても
女子生徒は続ける。
「まあ、エア友達でよければ1人いますけど」
「エア友達ってなに?」
「いま私が話をしていた相手ですよ。トモカちゃん」
1人でブツブツいっていたのは、エア友達と話していたの?!
「せ、せめて実在する人間にしてよ」
支倉君が横から口を挟む。
「そういえば、武田先輩も友達いませんよね?」
「なにを言う。毛利さんとか、悠斗とかいるぞ」
僕は反論した。
「毛利さんは友達じゃなくて、奥さんなのでは?」
「なんでだよ?!」
「だって、いつも一緒に居るし、長年連れ添った熟年夫婦の雰囲気を醸し出してますよ」
「だれが熟年だ」
「あと、悠斗ってだれですか?」
「足利悠斗だよ。サッカー部の」
「ええっ!? あの超イケメンの足利先輩と友達なんですか?!」
支倉君は驚いて立ち上がった。
「そんなに驚くなよ。悠斗とは幼馴染みなんだ」
「ほえー」
支倉君は再び驚く。
「僕と悠斗の関係を知らないなんて、新聞部のリサーチ力もイマイチだね」
僕はちょっと嫌味っぽく言った。
「くーっ」
支倉君、ちょっと悔しそうにしてから言う
「今度、足利先輩を紹介してくださいよ!」
「なんで? いつものように、取材とか言ってグイグイ行けばいいじゃん?」
「あんな超イケメン、緊張してうまく話せないですよ」
なんだ?
支倉君の恋愛対象は男子なのか?
まあ、どうでもいいけど。
「私たちを無視しないでください」
女子生徒が睨むように言ってきた。
「いや。無視しているわけではないよ」
僕は慌てて答えた。
「武田先輩にも友達がいないのであれば、先輩も隣人部の部員なればいいのでは? それで5人ですよね」
女子生徒が提案してきた。
「いまの話、聞いてた? 僕に友達はいるぞ。それより…、隣人部を作らないで歴史研究部に入らないか? 僕や毛利さんていう女子と友達になれるよ」
「2年生とは先輩後輩の関係で、友達になれるとは思えないのですが」
女子生徒は睨んできた。
いや、さっき僕を隣人部に誘ったよね?
その後も、結論の出ない無意味な会話が15分程続いた。
隣人部の設立も、歴史研の進入部員も達成されることなく無駄な時間を過ごしてしまった。
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