雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

ホワイトデー~その1

公開日時: 2024年6月19日(水) 20:46
文字数:2,070

 3月14日。

 ホワイトデー、今日も昨日に引き続き色々とやらないといけないことがある。

 面倒だが登校する。


 校舎に入り、下駄箱付近。

 登校してきた何人もの生徒が上履きに履き替えている。

 近くでは新聞部員が間隔を開けて4、5人ほどが立っていた。

 彼らは、"P"が手紙を誰かの下駄箱に入れるかもしれないということで、監視をしているのだ。

 その中に小梁川さんがいるのを見つけた。

 僕も上履きに履き替えると、彼女に話しかける。


「小梁川さん、おはよう」


 小梁川さんは下駄箱の方から目線を外さずに挨拶を返した。

「おはよう。武田君」


「どう? “P”は居たかい?」


「今のところは、下駄箱にバレンタインデーのチョコのお返しを入れる者が数名確認できたわ。彼らが“P”かどうかは、明日以降に改めて調査する予定よ」


「そうか…、じゃあ、頑張って」

 僕はそういうと、下駄箱を離れた。

 下駄箱付近に片倉部長は居なかったが、彼は他に考えていることがあると言っていたような。

 まあ、いいや。

 放課後までは、“P”のことは新聞部にお任せして、自分のやることをクリアしていかないといけない。


 昼休み。

 毛利さんと一緒に昼食を早々に食べ終えると、2年D組の鍋島さんにクッキーを渡しに行くため教室を出た。

 2年生のフロアは1階上で、普段は用もないのでほとんど行かない。

 ちょっと緊張するな。


 階段を登り、2年生のフロアの廊下を進む。

 すると、よく知った声で呼ばれた。


「キミィ!」


 この声は上杉先輩。

 僕は聞こえないふりして廊下を進む。


「ちょっと! 無視しないでよ!」


 上杉先輩は後ろから僕の背中を叩いた。


「あっ! 上杉先輩! 全然、気が付きませんでした」


「しらじらしいなー」

 上杉先輩は怪訝そうな表情で僕を睨みつけた。

「2年生の階に何しに来たの?」


「ホワイトデーのクッキーを渡しに」


「誰に?」


「2年D組の鍋島さんって人です」


「ふーん。知らないなあ」

 上杉先輩、ギャルのくせに陰キャだから交友関係が無くて、他の生徒のことは良く知らないのだろう。彼女には友達は伊達先輩ぐらいしかないのだ。


「折角だから、恵梨香にも挨拶していったら?」

 上杉先輩は教室の中を指した。


「いや、いいです」


「遠慮しないでよ」

 そう言って、無理やり彼女たちの2年B組の教室に引きずり込まれた。

 教室内の2年生たちの目線が僕に集まる。1年生が教室に来るのは珍しいのだろう。

 それに僕は不本意ながら学校一の有名人だからな。


 僕は上杉先輩に伊達先輩のがいる席へと連れていかれた。

 窓際の一番後ろ。いわゆる“主人公席”だ。

 伊達先輩は何やら資料を読んでいた。


「恵梨香。武田君が来たよ」


 上杉先輩が話しかけると伊達先輩は顔を上げた。


「あら、武田君。何か用?」


「え? いや、伊達先輩に用があったわけではないのですが…」


「廊下で武田君を見かけたから、恵梨香に挨拶させようと思って連れて来た」


 上杉先輩が説明すると、伊達先輩が尋ねた。


「どうして2年生のフロアにいるのかしら?」


「ホワイトデーのクッキーを渡しに来たんですよ」


「2年生からも、もらっていたのね」

 伊達先輩は感心したように言う。


「ええ、片倉先輩に聞いたら2年D組の人だと教えてくれたので」


 などと話をしていると、別の男子生徒が近づいてきて話しかけられた。

「やあ、武田君」


 僕は、そちらのほうを向いた。

 眼鏡を掛けた七三分けの真面目そうな男子…。

 以前会ったことあるよな…、でも誰だっけ?

 僕は誤魔化すように挨拶をする。


「こ、こんにちは…」


 七三分け眼鏡男子は話を始める。

「今日の放課後は、上杉さんをお借りするからね」


「え? お借りする? 上杉先輩を?」

 何の話か見えなくて僕は混乱する。 

「なんの話ですか?」


「え? 聞いてないのかい?」

 七三分け眼鏡男子は、ちょっと驚いたようだが詳細を説明してくれる。

「新聞部の片倉君から、上杉さんが将棋をやっているという話を聞いて、ウチの成田に将棋対決させることにしたんだよ。その様子をYouTubeにアップしようっていう、将棋部と新聞部の共同企画だよ」


 上杉先輩と成田さんの対決って、勝負にならないだろう。

 成田さんの圧勝でしょ?

 でも七三分け眼鏡男子、将棋部の部員ということか…。

 思い出した! 将棋部の部長の十河《そごう》先輩だ。


「そうですか…、初耳でした」

 上杉先輩が何をしようと僕は興味がない。


「キミが部室に全然来ないからでしょ?!」

 僕の答えに、上杉先輩は少々怒ったように文句を言う。


「昨日、僕と片倉君が歴史研の部室に行って、この話をしたんだよ」

 七三分け眼鏡男子は、微笑みながら話す。

「急な話に関わらず、上杉さんに色よい返事がもらえたから良かったよ」


「という訳で、今日の放課後は将棋部の部室に行くよ」

 上杉先輩は、今度はドヤ顔で言う。


 何でドヤ顔?

 将棋部でも囲碁部でも好きに行けばいい。


「えーっと…。ホワイトデーのクッキーを渡しに行きたいので、もういいですか?」

 会話が一区切りついたので僕は言った。


「うん。呼び止めて悪かったね」

 上杉先輩は笑いながらそう言うと僕を解放してくれた。


 余計な時間を使ってしまったな。

 僕は廊下に戻ると、2年D組を目指す。

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