雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

ラグビーボール

公開日時: 2025年2月8日(土) 23:18
文字数:2,321

 翌日、密着取材が始まった。

 この日の放課後は、生徒会室で雪乃を生徒会長にするための選挙対策会議が開かれてた。


 先週と同じように、生徒会室に伊達先輩、松前先輩、津軽先輩、佐竹先輩、雪乃、毛利さん、ミユ(名前が“佐久間”だとやっと知った)、新聞部の片倉先輩と小梁川さんがいた。

 そして、僕とその隣には、僕の密着取材をしている支倉さん。

 ロの字に長テーブルを配置して、みんなはそれを囲むように席に座っている。

 支倉さんは、ニコニコしながら僕の様子をうかがっている。 

 

 会議では、雪乃が制服にパーカーを導入したいと提案している。

 雪乃曰く、他校でパーカーを導入している学校があり、それが人気で生徒数が増えていると言うのだ。

 僕はパーカーの何が良いのわからないのだが、事実として生徒数が増えている学校があるというので、次回選挙の公約として取り入れることになった。


 そのほかも選挙のための対策で、主に新聞部のXアカウントでの情報戦について議論が交わされた。

 まあ、僕は聞いているだけなんだけどね。


 最後に、僕以外に男子の生徒会役員候補がいないというので、先日、佐久間さんの彼氏に役員候補になってくれないかと相談した件。

 残念だが断られたという。


 1時間程で会議が終わり、僕は例の古い資料をPDFデータ化している作業を始めようと立ち上がった時、佐久間さんに声を掛けられた。


「ねえ、武田って、怪文書の謎を解いているんでしょ?」


「う、うん。そうだよ」

 佐久間さんに、怪文書のことを尋ねられえるとは思っておらず、ちょっと驚いて答えた。


「何かが盗まれるかもしれないって言う」


「そうだね」


「じゃあさ。カレピのクラブでボールが盗まれたって聞いたんだけど、関係あるのかな?」


「えっ!?」

 僕はさらに驚いた。


 そして、佐久間さんの発言に、部屋にいた毛利さんと新聞部のメンツが全員集まって来た。

「何が盗まれたって?」

 片倉先輩が尋ねた。


「ボールですよ。ボール」


「彼氏の部活って何なのかしら?」

 小梁川さんが尋ねた。


「ラグビーだよ」


「詳しく話が聞きたいわ」


「じゃあ、今日も練習しているから、今からでも聞いてみたら?」


「そうするわ」

 小梁川さんは僕に向かって尋ねる。

「武田君と毛利さんも行くよね?」


「もちろん行くよ」

 僕は答えた。


 毛利さん、佐久間さん、片倉先輩、小梁川さん、支倉さんは生徒会室を後にして、ラグビー部が練習しているところに向かう。

 一方、伊達、松前、津軽、佐竹の各先輩方は怪文書に興味がないとのことで、4人で連れ立って下校し、雪乃も演劇部に行ってしまった。


 校庭に到着したら、ラグビー部が練習しているところまでやって来た。

 佐久間さんにお願いして、彼氏を呼んできてもらう。


 佐久間さんに連れられてやって来た彼氏の名前は可児君と言って、2年生でラグビー部の部長をしているという。

 髪は五分刈り、背は少し低いが筋肉が付いた太い腕が泥のついたユニフォームからのぞいている。

 可児君は、僕らが大人数でやって来たことに困惑している様子で尋ねた。

「一体、何事だよ?」


「ラグビー部で盗みがあったと聞いたんだけど?」

 小梁川さんが尋ねた。


「ああ。あの事か。月曜日にボールが1個無くなっていたんだよ」


 月曜日といえば、“P”が盗みを予告した3月14日だ。


「1個だけ?」

 小梁川さんは再び尋ねた。


「そう。まあ、1個ぐらい無くなっても誰も気づかないけどね」


「“誰も気づかないのに”どうしてわかったの?」


「それは、手紙が置いてあったからわかったんだよ」


「手紙? 取ってある?」


「ああ。怪文書のことは、新聞部のXで見てたからね。こういうこともあるかと捨てずに部室に置いてあるよ」

 そう言うと可児君は、僕らを校庭の端にある体育会系部活の部室棟まで僕らを連れて来た。

 そして、ラグビー部の部室の中に案内する。

 ラグビー部の中はカバンや靴など、いろんなものが乱雑に置いてあった。

 そして、ちょっと汗臭い。


 可児君は自分のロッカーから、手紙を取り出して小梁川さんに手渡した。

 僕、毛利さん、片倉先輩、支倉君は小梁川さんを取り囲むようにして、手紙を覗き込んだ。

 手紙には、


 ◇◇◇


 ラグビー部からは、ラグビーボールをいただいた。

 次をお楽しみに。


                      Р

 ◇◇◇


 と書かれてあった。


 そして、署名は“Р” 。

 この手紙を書いたのは、いつもの怪文書の人物に間違いないだろう。


「あと」

 可児君は話を続ける。

「こんな本が一緒に置いてあったよ」


「これは…」

 僕はその本を手に取った。


 A4より少し大きめの本。

 黄色い表紙に黒文字でタイトルが英語で書いてある。


“CONCONE”


「コンコンネ…?」

 僕はタイトルを読んだ。


「“コンコーネ”よ」

 小梁川さんがツッコミを入れて来た。


「これは、コーラス部から盗まれた楽譜!?」

 僕は驚いて少々声が大きくなった。


「きっとそうね」

 小梁川さんは可児君に尋ねる。

「ほかに何かなかった?」


「いや、その本と手紙だけだよ」


「そう…。部室のどこにおいてあったの?」


「そこだよ」

 可児君はそう言うと、ラグビーボールが入っている鉄の籠を指さした。

 ラグビーボールは何個もあったので、1個無くなっただけなら、確かにそれに気づかなかっただろう。


 僕らは可児君に礼を言って、コンコーネと手紙を持ってラグビー部の部室を後にした。

 そして、可児君はラグビー部の練習に戻って行った。

 佐久間さんは、もう少しで下校時間になるので可児君の練習を終わるのを食堂で待つというので、校舎の中に消えていった。

 彼女は、謎ときにはあまり興味が無い様子だ。


 僕と毛利さん、片倉先輩、小梁川さん、支倉さんは話し合って、明日の放課後にコーラス部の部室に行きコンコーネを返却した後、“Р”の対策会議をやろうと言うことにして、今日のところは解散した。

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