僕と毛利さんと支倉君は歴史研の部室を後にして、美術室にやって来た。
美術室の前では、見知らぬ1年生らしき2人組の男子が扉に張り付いていた。
それを見た支倉君が声を掛ける。
「こら! 美術室は男子禁制ですよ!」
「わっ!」
2人組は驚いてこちらを見ると、慌てて廊下を走り去った。
「なんだ、今の?」
僕は尋ねた。
「絶対覗きですよ! まったくケシカランです!」
支倉君が怒った様子で言った。
「そうか…。見えたのかな?」
僕は扉のほうを見て、隙間があるか確認しようと近づいた。
その瞬間、扉が開いた。
「わっ!」
今度は僕は驚いて1歩後ずさった。
美術室の中から現れたのは、半分金髪、半分ピンク髪の蜂須賀さん。
「あら、武田君…。覗き?」
彼女は怪訝そうな顔で尋ねた。
「ち、ち、違う!」
濡れ衣もいいところだ。
続いて、他の女子美術部員と、雪乃も美術室から出て来た。
雪乃は、すでに制服姿だった。
「純也。私のヌードが見たいなら、いつもで見せてあげるって言ったのに」
雪乃は少々呆れたようで言った。
「だから違うって!」
「武田先輩は覗き魔じゃあないですよ!」
支倉君が援護してくれた。
「他の1年の2人組が覗こうとしてました!」
「そうなの? まったく、困ったもんね」
蜂須賀さんは呆れて言った。
「風紀委員に通報しておこうかな」
「まあ、モデルは今日で終わりだし、私は別にいいよ」
雪乃は僕に近づきつつ言った。
「それに覗いてたとしてもシーツ被ってたし、なにも見えてないよ」
とりあえず、僕が覗きをしていたという疑いは晴れた。
冤罪もいいところだよ。
「でも一応、風紀委員の通報しておくよ」
蜂須賀さんは言った。
あれ? 何しに美術室に来たんだっけ?
えーと…。
そうだ、思い出した。
「雪乃。柔道やるって聞いたけど?」
僕は尋ねた。
「うん。良く知ってるね」
雪乃は微笑んだ。
「支倉君から聞いたんだ」
「へー。支倉君はどこから聞いたの?」
雪乃は支倉君に尋ねた。
「はい! 他の新聞部員が柔道部の取材をしているなかで聞いたそうです!」
支倉君は元気よく答えた。
「そうなのね。さすが新聞部だわ」
雪乃は感心した様子。
「で」
僕は尋ねる。
「なんで、柔道を?」
「寝技を極めようと思って」
雪乃はドヤ顔で答えた。
「ええっ…、そんな理由?」
僕はちょっとあきれたて言った。
「冗談よ」
「はあ…」
なんなんだ。
「ほら。春休みに柔道部の練習の横で、純也に技をかけて遊んでたじゃん?」
「ああ…、そういう事があったね…」
春休みに、妹の美咲の友達たちが学校に見学に来た時、柔道部の練習の横で僕は妹の友達のいたぶられていたのだ。
「それで、柔道部の女子が、私が柔道に興味があると思って声を掛けて来たのよ。なんでも5人そろわないと、夏休みの何とかっていう大会に出場できないとか、なんとか」
「雪乃って柔道に興味あったの?」
「ないわよ」
「はあ? じゃあなんで?」
「その代わりに生徒会選挙の票の取りまとめをお願いしたのよ。柔道部、空手部、合気道部とかにね。私、武道系の人たちとはあまり接点がないから。」
そこまでする?
でも、これも買収だよな。
「それで、柔道、やったことないでしょ?」
「ないけど、何とかなるわよ。私、運動神経は良いから」
「運動神経は、良いかもしれないけど…」
雪乃の運動神経が良いのは、彼女が出場していた球技大会でのバスケの試合を見たのでわかっているが。
運動神経が良いというだけで、柔道が出来るのだろうか?
「ゴールデンウイーク明けから、朝練に参加するつもり」
「演劇部は?」
「そっちは、放課後」
「そ、そうなんだ」
何か、アグレッシブというか、よくやるな。
そして、生徒会長の席は、そこまで魅力的なんだろうか?
僕は巻き込まれることはなさそうだから、まあいいでしょう。
僕と雪乃と毛利さんは下校するため、校門辺りまで一緒に移動した。
そして、高速バスの予約をスマホでして、料金はコンビニ払いにして後で払いに行くことにした。
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