雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

抵抗勢力

公開日時: 2022年10月24日(月) 20:00
文字数:2,219

 火曜日。放課後。


 僕はいつもの様に図書室で勉強をしていた。


 すると声を掛けられた。

「武田君」

 顔を上げるとそこには、前髪に赤いヘアピンの眼鏡女子=小梁川さんが立っていた。

 彼女は隣に座る。

「今、取材してもいい?」


「取材? 何の?」


「織田さんのことよ」


 どうしようか…。まあ、彼女と付き合っているのは隠してないし、話してもいいか。

「いいよ」


「録音もするね」

 そう言って、小梁川さんはスマホのボイスメモを立ち上げた。

 そこまでするのか? これは、迂闊なことを話せないな。


「じゃあ、始めるわね…。武田君、織田さんと付き合ってるって本当?」


「本当だよ」


「おおっ! いつから?」


「先週の土曜日」


「ほやほやだね」


「そうだね。湯気が立ってるよ」

 僕は冗談を言った。


「武田君から告白したの?」


「そんなこと言えないよ、恥ずかしい」


「どういうシチュエーションで?」


「秘密」


「えーっ! 教えてよ」


「やだよ」


「じゃあ、織田さんのことを意識し始めたのはいつ?」


 恋愛感情がまだ無いから、いつ意識し始めたと言われてもな。困った。

 適当に答えよう。

「"白雪姫”の舞台あたりから、かな」


「やっぱりステージ上で、キスされたことが切っ掛け?」


「まあ、そんなところ」

 これも適当。


「ということは、付き合うまで1か月半ぐらいね。織田さんの噂については、どう思っていたの?」


「噂? 織田さんがいろんな男と付き合ってた、という噂のこと?」


「そう、それ」


「なんとも思っていないよ」

 これは本当だ。

「最近は、そんなに男と付き合っていなかったみたいだけど」


「その様ね。で、どこまで行ってるの」


「え? どこまで行くとは?」


「キスとか、もっとすごいこととか、そういうことよ」


 キスだけだけど。

「それは、秘密だな」

 教えない。


「そう、わかったわ。さすがにそれは言えないわね。でも、武田君と織田さんが付き合っているというネタは、ツイッターでバズるわ」


「そうかい」

 一方的に聞かれるのは面白くないな。僕は小梁川さんに言った。

「小梁川さんのことも教えてよ」


「私?」

 小梁川さんは、ちょっと驚いたようだった。


「教えてくれたら、僕のこと、もう少しは話してもいいよ」


「いいわ」


 よし、いろいろ聞いてみよう。

「小梁川さん、彼氏は?」


「今はいないよ」


「どこに住んでるの?」


「練馬」


「きょうだいはいる?」


「大学生の兄がいるわ」


「趣味は?」


「人間観察」


「得意な教科は?」


「生物と化学」


「ということは、理系に進むの?」


「そのつもりよ」


「あれ? 将来の夢はジャーナリストじゃないの?」


「科学ジャーナリストという職業ものあるのよ」


「へー」


「だから、私は科学部にも在籍してるのよ」


「そうなんだ。そういえばラムネ美味しかったよ」

 学園祭で科学部が自作のラムネを作っていて、それのお裾分けをもらったことがあったのだ。


「そう、よかったわ」

 小梁川さんは微笑んだ。

「私のこと知ってどうするのよ」


「さあ、どうしようか?」


「じゃあ、私の番ね」


「武田君は毛利さんとは、付き合ったことなかったんだっけ?」


「それは、お城巡りの時に毛利さん本人に聞いたんじゃなかった?」


「ええ。でも、武田君の口からも聞きたいわ」


「付き合ってないよ」


「好きでもなかった?」


「ない」

 これは嘘。

 好きだった。書庫での一件がなかったら、毛利さんとは付き合っていただろう。


「他に気になる女子は、これまでに、いなかったの?」


「いないよ。つい最近まで、まさか彼女が出来るとも思ってなかったからね。僕は、ぼっちの陰キャだから」


「そうね」


 そこは、"そんなことないよ”、だろ。


 小梁川さんは、質問を続ける。

「住んでいるところは?」


「学校から徒歩5分」


「きょうだいは?」


「中2の妹が1人」


「妹さん、厨二病なの?」


「いや、中学2年という意味だよ」


「武田君の得意科目は?」


「なし」


「趣味は?」


「マンガを読む、寝る」


「将来の夢は?」


「考え中」


「部屋に連れ込んだ女の数」


「えーっと…」

 部屋に来たことがあるのは、雪乃、毛利さん、伊達先輩、上杉先輩。

 でも、"連れ込んだ”、というのとは違うよな。

 そして、これ、言うことないか。

「秘密」


「じゃあ、これぐらいでいいわ」

 小梁川さんは、ボイスメモを止めた。


「これ、僕の言ったこと全部ツイッターに流すの?」


「全部じゃないわ」

 小梁川さんは、急に真顔になって話題を変える。

「それと、生徒会に対抗しようとする勢力がいる話は知ってる?」


「知ってるよ。昨日、聞いた。北条先輩でしょ?」


「そう。その情報は新聞部が、いち早く入手したのよ」


「へー。それで、新聞部はどちらに付くの?」


「私たちは、もちろん生徒会側よ」


「対策として、まずは、だれか男子を生徒会役員にするって聞いたけど。それって武田君?」


 あまりしゃべらなほうが、いいのかな?

 でも生徒会と新聞部は繋がっているみたいだからな、いいのか?

「その話は昨日されたけど、まだ確定じゃないよ」


「話はあったのね」


「まあね。ところで北条先輩以外に、どういう人たちが抵抗勢力なの?」


「新聞部が知っている範囲だと、生徒会長選挙の時の北条先輩の仲間と、あとは将棋部とか」


「将棋部?」


「なんでも、ガリガリ君の領収書を却下されたことを逆恨みしているみたい」


「なにそれ?」

 なんだ、人間が小さいな。


「今は、抵抗勢力の人数は少ないけど、まだ仲間が増えるかもしれないから。注意している」


 しかし、これ、面倒なことにならないといいけどな。


 小梁川さんの取材は終わり、彼女は去って行った。

 僕は自分の勉強に戻る。

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