土曜日。ついに学園祭1日目がやって来た。
雑司ヶ谷高校の学園祭は土日に2日間の開催となっている。
僕は、1日目の午前中はクラスの出し物の演劇 “白雪姫” で王子様役をやる。
そして、午後からと2日目の終日、歴史研究部の出し物 “占いメイドカフェ” で執事をやらされる。
そんな朝。僕は、いつもより早く目が覚めた。
舞台に立たねばいけないことで、なんか、すでに少し緊張している。
制服に着替えると、自分の部屋を出てダイニングまでやって来た。
椅子に座って、朝食のパンを頬張っていると、妹の美咲がパジャマ姿で起きてきた。
美咲も椅子に座ると話しかけて来た。
「お兄ちゃん、私も “白雪姫” 見に行くからね。11時からだっけ?」
「そうだよ」
恥ずかしいので、出来れば見てほしくなかったが。
まあ、出番もセリフも少ないから、あっと言う間に終わるはずだ。と、自分い言い聞かせる。
僕は朝食を食べ終えると、舞台で着る王子様とカフェで着る執事の衣装の入った大きなカバンを忘れずに持って家を出た。
家から徒歩5分で学校に到着。
校門には“雑司祭”という派手目のアーチが出来ていた。
誰が造ったんだろうか。たしか昨日の帰りにはなかったが。
そして、雑司が谷高校の学園祭は“雑司祭”というのか、誰もその名称で呼ばないので、そう言えばいう名称だったかな? と思いつつ、アーチをくぐった。
校門のすぐ脇に集会用テントが張られて、学園祭のパンフレットが大量に置かれている机があった。
来訪者などに配るのだろう。
以前、ホームルームの時間に配られて僕も持っているが、あまり興味がないのでちゃんと読んでいなかった。後で、もう一度読んでみるか。
そして、同じような集会用テントが校舎まで並び、屋台の出し物をやる各部が準備を始めている。
学園祭と言えども生徒は全員出席しなければならないのだ。朝、全員、体育館に集められ、点呼が取られる。
とはいえ、朝の点呼が終わったら、それ以降は確認されないので、適当に家に帰ったり、遊びに行っても、バレなければ良い。
まあ、僕はずっと拘束されているから、学校にいるけど。
体育館で所定に位置に並ぼうと行くと、毛利さんが居た。
昨日の書庫での衝撃のキスシーンが脳裏を再びよぎる。
毛利さんは僕を見つけると、挨拶をしてきた。
「おはよう」
「あ、ああ、おはよう」
僕は動揺を隠せなかった。
「どうしたの?」
毛利さんは、若干挙動不審となっている僕に尋ねてきた。
「いや、何でもないよ。この後の演劇でちょっと緊張しているんだ」
僕はとっさに理由を作ってごまかした。
「頑張ってね」
毛利さんは笑顔でそう言う。
毛利さん、今日はいつもの通りだな…。
「おお! 武田君!」
次に声を掛けた来たのは織田さんだった。
今日は張り切っているのか、いつもより元気そうだ。
「今日はよろしくね。リラックスして演技してね」
「あ、ああ、頑張るよ」
と言いつつ、全然、リラックスできそうにない。
そして、時間となり全校生徒がほとんど集まって来たぐらいに、ようやく悠斗がやって来た。今日も松葉杖を付き、取り巻きの女子を数名連れていた。
やっぱり、まだ松葉杖は取れなかったか。
「やあ、純也。今日は頑張ってな」
悠斗は、僕にエールを送る。
「お、おう」
僕は簡単に返事をすると、クラスの列の所定に位置に並んだ。
クラスの担任が、生徒が来てるかどうかいちいち確認して出欠を取る。
しばらくしてそれも終わると、壇上に生徒会長である伊達先輩が上がってきた。
そして、マイクを手に高らかに宣言する。
「これより、雑司が谷高校学園祭 “雑司祭”を開幕します!」
それと同時に生徒たちの歓声が上がり、その多くが各自の出し物をやっている教室などに向かっている。
そして、いくらか体育館に残った生徒は、パイプ椅子を並べるため、ぞろぞろと倉庫へ向かう。
そして、一番最初の出し物を見るためであろう生徒も若干残っていた。
僕も出番となる、“白雪姫”の舞台は5番目の午前11時からだが、移動が面倒なので体育館に居ようと思っていた。
並べられたパイプ椅子に適当に座る。そして、鞄の底に入っていた“雑司祭”のパンフレットを開いた。
体育館の出し物のタイムテーブルのページを開く。
最初は、漫才・落語研究部の漫才、お次はダンス部のダンスパフォーマンス、合唱部の合唱、映画研究部のショートムービー。そして、僕ら、1年A組の演劇“白雪姫”だ。
自分の準備もあるのでショートムービの最初ぐらいまでは見れそうだな。
体育館の窓はカーテンで閉め切られ、客席部分は暗く、ステージ上のライトだけが眩しく光っていた。
いよいよ、出し物が始まる。
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