雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

『距離0.01mm』

公開日時: 2022年10月5日(水) 20:01
文字数:1,123

 歴史研のメンバーでの勉強会は、無事、夕方ごろに終了した。

 取り敢えず明日からの中間試験は何とかなりそうだ。


 皆が一息ついて、談笑していると、上杉先輩がベッドの上から話しかけてきた。

「この漫画、面白いね」

 彼女が手に持っているのは、僕が雑司が谷高校の学園祭で買った漫研の同人誌。

 R18ではないが、その境界線をギリギリまで追求したというアレだ。

 確かに僕も読んでみて、ギリギリのエロさでだけなく、ストーリーも面白いと感じていた。


「これ、どこで買ったの?」


「雑司が谷高校の学園祭で、漫研の物販で買いました」


「へー。誰が描いたんだろうね」

 上杉先輩はペラペラとページをめくりながら尋ねた。


「著者の名前が表紙に書いてあるじゃないですか?」


 表紙には、主人公の男子とヒロインの絵。

 タイトルには、


『距離0.01mm』


 そして、


 ●原作:アンナ・鶴ゲーネフ

 ●作画:バタフライ・ビー


 と書かれてある。


「それはわかってるよ。ペンネームじゃあ、学校の誰かわからないじゃん?」

 上杉先輩は不満そうに言う。


「確かに…」

 しかし、そもそも、雑司が谷高校の生徒とは限らないのでは?


 それにしても、変なペンネームだ。

 “鶴ゲーネフ”は、“ツルゲーネフ”と読むのが正解なのか?

 バタフライ・ビーは、蝶・蜂?

 などと考えていると、毛利さんが口を挟んだ。


「ツルゲーネフは19世紀のロシアの文豪よ。何作か読んだことがある」


 文豪か。なら文学少女の毛利さんなら得意分野だろう。


「アンナ・ツルゲーネフっていう文豪なの?」


「文豪のツルゲーネフは男で、たしか、名前はイワン・ツルゲーネフだったはず」


「じゃあ、別人かな」


「内容を確認すれば、良いんじゃない?」

 上杉先輩が提案する。


「そうか…、じゃあ、毛利さん、これ読んでみて、ロシアの文豪が原作か確認してくれないかな?」


 僕は同人誌を上杉先輩から奪い取って、毛利さんに手渡そうとした。


「エロい本を無理やり女子に読ませるのは、セクハラだよ」

 と、上杉先輩はニヤつきながら言う。


「あっ! 毛利さん、ゴメン」


「いいよ、家で読んでみる」

 そう言って毛利さんは同人誌を手にした。


 取り敢えず勉強会はお開きとなった。

 帰り際、美咲も伊達先輩に何度も礼を言っている。

 皆の帰宅を、玄関まで見送る。


 皆を見送った後、妹が言う 

「伊達さんにもっと勉強見てもらいたいなー」


「伊達先輩、家庭教師のバイトやってるから、お金払えばやってくれるんじゃない? 親父に相談したら?」


「そうだ! お兄ちゃん、伊達さんと付き合いなよ」


「なんでそうなるんだよ?」


「私も、タダで教えてくれそうじゃん?」


「断る」


 打算的な妹だ。


 僕は戻って自分の部屋の扉を開けた。

 今回も、女の匂いで充満している…。

 僕は、しばらく、それを堪能してから消臭剤を撒いた。

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