水曜日。
すっかり忘れていたが、今日は春分の日で学校は休みなのだ。
それに気が付いたのは朝起きてからなのだが。
折角の休みなら、2度寝することにした。
そんなわけで、睡眠中。
どれぐらい時間が経っただろうか、おぼろげな意識の中で寝ている僕の上で誰かが覆いかぶさっている…?
えっ!?
僕は、横になったまま眼を開いた。
なんと、目の前には上杉先輩がいた。
「わっ!!! 何やってるんですか?!」
「あっ? 起きた?」
「起きますよ!」
「いや、隠してあるエロマンガを取ろうと思って」
「またですか…」
以前にも上杉先輩がベッドと壁の隙間に隠してあるエロマンガを取ろうして、覆いかぶさってたことがあったな。
あの時は、僕は寝ぼけていて、上杉先輩の胸を触ってしまい、その罰として1か月間奴隷をやらされたのだった。
あれは、最悪の1カ月だったな。
今日は、胸を触らなかったぞ。
上杉先輩はベッドと壁の間をゴソゴソしてエロマンガを探し当てた。
「あった、あった」
上杉先輩は嬉しそうに言うと、そのまま僕の横に寝転がった。
そして、言う。
「ちょっと、もう少しそっち行ってよ」
上杉先輩は自分の身体で、僕の身体を押しのけようとする。
「ちょっと…。狭いですよ。それに、僕の横でエロマンガを熟読するの止めてくれませんか?」
「別に良いじゃない、これぐらい? キミはいつも女子と一緒に寝てるから、慣れてるんでしょ?」
「慣れてません」
上杉先輩は、僕の言葉を聞こえないふりをしてエロマンガを熟読し始めた。
僕は、呆れて、上杉先輩に構わずに3度寝を遂行する。
少し時間が経っただろうか、上杉先輩が口を開いた。
「キミの読んでるエロマンガを何冊も読んだけどさあ、ヒロインのキャラに統一性がないね。オールラウンダー?」
「オールラウンダーってなんですか?」
「やれれば、女ならだれでも良いってこと?」
「なんで、そうなるんですか?!」
「だって、そうじゃん? リアルでも、毛利ちゃんと織田ちゃんは全然違うタイプじゃん?」
「なんで、あの2人が出て来るんですか?」
「だって、カノジョなんでしょ?」
「違いますよ」
「まあ、いいけどね…」
そう言うと再びエロマンガを熟読し始めた。
上杉先輩は読みながら、時折、ため息をつく。
何度もため息をつくので、思わず聞いてしまった。
「どうかしたんですか?」
エロマンガが面白くなったのか?
上杉先輩は、ぽつりと言う。
「いや…、卒業してしまったなと…」
「卒業? なんのことですか?」
「大友先輩だよ」
「ああ…。そりゃ3年生ですからね」
「実は、アタシ、大友先輩のこと好きだったんだよね」
「えええっ!?」
僕は驚いて目を見開いた。
しかし、よく思い返してみると、上杉先輩は大友先輩の前にいる時だけ、借りてきた猫みたいになっていたな。
そういうことか…。
確かに大友先輩は、爽やかイケメンで、上杉先輩が好きそう顔だよな。
大友先輩が、上杉先輩の好きな金持ちかは知らないけど。
「いつから好きだったんですか?」
思わず聞いてしまった。
「いや、1年生の時、部活紹介のオリエンテーションの時に一目惚れ」
「ええー」
一目惚れとか意外な事態だ。
「それで、最初、部活にはどこにも興味なかったんだけど、結局、歴史研に入ったんだよね。恵梨香も一緒に入ってくれて」
「歴史研に入ったのは、乙女ゲーをやっていた影響だって言ってませんでしたっけ?」
「それは建前だよ」
「なるほど」
「でも、入部してすぐに、大友先輩と南部先輩がつきあっているって知ってね」
「ああ…、それは辛いですね」
「だから、その辛さを晴らすためにキミに絡んでいるんだよ」
「はあ?! 迷惑だからやめてくださいよ」
「まあ、それは冗談だけどね」
だったら、何で僕に絡んでくるんだよ。
「そういう訳だから、私には優しくしてよ」
「なんでですか?」
「お兄ちゃん! 傷心の紗夜さんを気遣ってあげなよ」
突然妹の声がして、僕は驚いた。
「お前、いたのか?」
僕が身を起こすと、妹が床に座ってマンガを読んでいた。
ベッドに横になっていたから、妹が視界に入らなかったので、いるとは思わなかったよ。
「いるよ!」
妹は怒りながら、僕のほうを向いた。
「それにしても、みんな何で、僕の部屋でくつろぐんですか?」
「なんか、この部屋、自分の部屋みたいに落ち着くんだよね」
上杉先輩が言う。
「いくらなんでも、くつろぎ過ぎですよ」
「まあ、良いじゃん」
上杉先輩はそう言うと、再びエロマンガを熟読始めた。
「お兄ちゃんは心が狭いなあ。部屋ぐらい居させてあげなよ」
妹が上杉先輩を援護する。
まあ、みんなのたまり場みたいになっているのは、今に始まったことじゃあないし、僕が言ったところで、辞めたりしないよな上杉先輩は。
僕は、諦めて4度寝を遂行することにした。
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