水曜日。ホワイトデーは明日。
今日は、3月だというのにかなり寒い日だ。
こういう日は布団に潜っていたいのだが、仕方ないので登校した。
昨日、買ったホワイトデーのクッキーを紙袋に入れて学校まで持ってきた。
今日のうちにクッキーを渡せそうであれば、赤松さん、小梁川さん、福島さんには渡そうと思っている。
あわよくば、判明した蜂須賀さんと鍋島さんにも渡したい。
そして、顔を知らない2人、一条さん、山名さんの人探しは続行中である。
さて、どうやって探そうか?
そうだ! 悠斗なら知ってるかもしれない。
ダメもとで、ちょっと聞いてみるか。
という訳で、朝、登校してきた悠斗に教室で話しかけた。
「悠斗、おはよう」
「純也、おはよう。教室で話しかけてくるの、珍しいね」
悠斗はちょっと驚いた様子。
「最近は、VRのチャットばかりだったからな」
「だな…。それで、なにか用かい?」
「実は、人を探していて」
「人探し?」
「そう。バレンタインデーにチョコをくれた相手なんだけど、名前しかわからなくて」
「それは誰だい? でも、俺も知らないかもしれないぜ」
「一条さん、山名さんと言うんだが…」
「ああ! 山名さんは知ってるよ。確か一雄と同じクラスだったはず。E組だな」
六角一雄君とはかろうじて知り合いだから、後でE組を尋ねてみよう。
僕は礼を言う。
「助かるよ。後は一条さんか…」
「一条さんは知らないなあ。全校のクラスを回って大声で呼べばいいんじゃないか?」
悠斗は笑いながら言った。
「さすがに、そういう目立つ行為はしたくない。ともかく、ありがとう」
僕は話題を変えた。
「そう言えば、悠斗はホワイトデーのお返しはするんだろ?」
「もちろん」
「チョコを結構、沢山もらっていたけど、全員に返すのかい?」
「全員は無理かな。俺は出来る範囲で返すつもりだけど。純也もたくさんもらったんだろ? どうするんだい?」
「できれば全員に返そうと思って」
「義理難いなあ」
「そうかな? ともかく助かったよ」
ここで、予鈴が鳴ったので、僕と悠斗は自分の席に着いた。
そして、午前中の授業が終わり、昼休み。
教室で、毛利さんと一緒に弁当を食べ終えると六角君を尋ねるためにE組に向かう。
もし、山名さんに会えたら、クッキーを渡してしまおうと思って、クッキーの入った紙袋を手にしている。
幸運なことに六角君はE組を出た廊下のところで、友達と談笑していた。
ちょっと緊張しつつも、僕は声を掛ける。
「六角君」
六角君は僕を見て驚いて目を見開いた。
「やあ! 武田君じゃないか! 学校で話しかけてくるなんて、珍しいね」
六角君と直接話をするのは、合コンぶり。
VRゲームでチャットをたまにしている程度の関係性だ。
僕は答える。
「実質、初めてじゃない?」
「だよねぇ。それで、なにか?」
「実は、山名さんを捜しているんだよ」
「ああ、あいつね。呼んでこようか?」
「お願いするよ」
「わかった、ちょっと待って」
六角君はそう言うと、E組の教室に入って行ったが、すぐに教室から出て来た。
「今、いないなあ。多分、食堂じゃあないかな」
「そうか…。残念」
「食堂に行ってみる? それとも休み時間に来るか、放課後に部室に行ってみたら?」
「部室? 山名さんって、何部なの?」
「水泳部だよ」
「そうなの?!」
なんと! 赤松さんも水泳部のはず。これは手間が省けそうだ。
「じゃあ、放課後、部室に行ってみるよ。ありがとう」
僕は六角君に礼を言うと、自分のクラスのA組に戻ってきた。
後は、一条さんだけか。
どうやって探そうかな?
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