雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

ゲネリハ

公開日時: 2022年5月18日(水) 20:51
文字数:1,454

 翌日の水曜日。


 放課後にクラスの出し物の“白雪姫”の本番さながらの練習が行われる。

 いわゆる、“ゲネリハ” というやつだ。場所も本番同様、体育館のステージが使えるとのこと。

 大道具、小道具も完成し、準備されて既に、各担当によって体育館へ移動済みだそうだ。


 出演者は、全員が一旦教室に残る。

 衣装が完成しているとのことで、クラスで衣装作製の担当していた女子から衣装が渡された。

 渡された衣装を手に教室で男女時間をずらして着替えてみる。

 僕は“王子様”の衣装だ。昨日は執事だったが、なにやら立場の違いが忙しないと感じた。


 教室は鏡が無いので、皆、トイレの洗面台まで向かう。

 そして、洗面台の鏡で自分の姿を整えて、確認する。

 衣装の作りはしっかりしていて、まあまあ、良い感じ? かな。

 衣装担当の腕がいいのだな。

 衣装担当によると、ディズニーアニメ映画の衣装を参考にしたとのことだが、少々地味な感じがした。そして、マントが邪魔だ。


 教室へ戻る。

 織田さんの衣装の白雪姫も良く似合っていた。

 そして、王女役、小人役、などもそれぞれが衣装を着たまま体育館に向かう。


 体育館では卓球部とバスケ部が練習をしていた。


 卓球部の部長である羽柴先輩が僕を見つけて声を掛けてきた。

「誰かと思えば、武田君じゃあないか! 何だい、その恰好は?」


「これは、“白雪姫”の王子様です」


「“白雪姫”?」


「ええ、学園祭のクラスの出し物です」


 羽柴先輩はもう一度僕の姿をじっくり見て言う。

「へー。なかなかいいね」


「これからステージで、ゲネリハをやるんですよ」


「じゃあ、“白雪姫”を見れるということだね」


「恥ずかしいので、先輩たちは卓球の練習をしててくださいよ」

 僕は、そう言ってちょっと笑ってから、ステージに登った。


 結局、卓球部とバスケ部の数名が僕らのゲネリハを見学するようだ。なんか、恥ずかしいな。

 練習を続けている者もいるが、その中には、僕や織田さんの天敵、明智さんの姿が見えた。

 彼女は演劇では担当の役も就いてなく、織田さんとの対立もあるのでこちらには興味ないだろう。


 そんなわけで、ゲネリハを開始。

 照明、といっても体育館に設置されている単純な照明なので、点けるか消すかしか出ないそうだ。それでも舞台転換などでタイミングよくON/OFFしていた。

 音響担当もBGMやSEをタイミングよく流す。

 大道具担当も背景のパネルの転換のスムーズにこなす


 そんなわけで、ラストの実際はキスしないキスシーンまで終わった。

 出来栄えは完璧と言っていいだろう。

 見学者からも拍手があった。


 途中、織田さんからは、立ち位置の指摘があったが、概ね満足なようだった。

「じゃあ、土曜日の本番、頑張りましょう!」

 最後に皆を鼓舞して、教室に戻ることになった。


 帰り際、再び卓球部の羽柴部長が話しかけてきた。

「なかなか良かったよ」


「ありがとうございます」


「キスは、しないんだね」


「はい。キスしそうなところでライトを消して舞台上を暗転して、再びライトが点いたら白雪姫は目覚めていた、という演出で本当にキスはしません。本番当日は、窓もカーテンで閉め切る予定だそうで、体育館の中は真っ暗になりますから、そう言う演出が可能だそうです」


「なるほど、そう言うことか」


「ところで、卓球部の出し物はなんですか?」


「屋台の焼きそば屋だよ。良かったら食べに来てよ」


「わかりました。行きます」


「あと、良かったら練習にも来てね」

 夏休みに卓球部の合宿に参加させられた時にも、勧誘されたな。まだ言うか。


「ははは…」

 僕は、笑ってごまかした。


 そして、体育館を後にした。

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