週末は例によって、O.M.G.のライブの手伝いでライブハウスに行く。
ゴールデンウィーク後半の3日(憲法記念日)、4日(みどりの日)、5日(こどもの日)の3日間は、毎日ライブがあるという。
僕は5日にお城巡りの予定があるので、3日と4日だけ手伝うことにした。
でも、ゴールデンウィークなのに、休みが少ない……。
ライブ会場には、やはり妹と前田さんも来ていて、「物販の手伝い」と言いながら、O.M.G.のファンと一緒にチェキを撮っている。
彼女たちは手伝いよりチェキ撮影の時間が長いため、その分、僕の仕事が増えている。
さらに妹と前田さんは、ファンから「アイドルやらないの?」としょっちゅう聞かれるらしく、だんだんその気になってきている。
僕は「中学3年は高校受験があるだろ?」と言って何とか食い止めている。
4日のライブは秋葉原の会場で、午後の早い時間に開催された。
ライブのあと、僕とO.M.G.の3人、妹、前田さんの6人でカフェに入り、打ち合わせをすることに。
「解散ライブの件だけど」
真帆が真剣な顔で切り出した。
「なかなか適当な会場が見つからなくて、どうしようかと」
O.M.G.は夏に解散する予定で、その解散ライブの会場を探しているのは以前から聞いていた。
「たしか、キャパ500人くらいの会場がいいんだっけ?」
僕は確認のために尋ねる。
「うん。でも、500人規模のライブハウスって、貸し切り料金がすごく高いの」
まあ、そうだろう。
500人も入るライブハウスなんて行ったことないけど、どれくらいの広さなんだろう? 学校の体育館くらい?
いや、体育館ならもっと入りそうか。
いつもの秋葉原や池袋の会場は、100〜150人規模と聞いたことがある。
それでも貸し切ると20万円くらいするらしい。
となると、500人規模なら100万円……?
そんな大金、高校生に出せるわけがない。
でも前売りチケットが順調に売れれば、なんとかなるのかもしれない。
「純ちゃん、探しておいてよ」
真帆が唐突に言った。
「え? 僕が?」
「敏腕プロデューサーなんでしょ?」
「いつの間に“敏腕”がついたんだよ?」
普段は雑用係なのに、こういうときだけプロデューサー扱いだよな。
「お兄ちゃんは、あてにならないと思います!」
妹がまたディスってくる。
「私は純ちゃんを信じているわ」
真帆が微笑む。
信じられても困るよ……。
僕は曖昧な返事でお茶を濁しておいた。
「解散ライブのときに、オリジナルの新曲を発表して華々しく散ろうと思うんだけど、どう?」
宇喜多さんが提案した。
解散ライブで新曲?
それってどうなんだろう……。僕はそう思ったけど、真帆も龍造寺さんも乗り気らしい。
「またフロイスさんにお願いしようよ!」
龍造寺さんが言った。
フロイスさん――以前、徳川さんが紹介してくれた作曲家だ。
「「それがいい!」」
真帆も宇喜多さんも同意する。
まあ、いいか。
新曲には僕が関わることはなさそうだし。
ほかには「近々、新衣装をお披露目する」とか、そんな話が出て、打ち合わせは終了した。
帰り道、電車の中で解散ライブのことを考えていた。
会場探し、やった方がいいんだろうな。
夏まであと3か月ほどしかないし、悠長に構えてはいられない。
面倒だから学校の体育館でやればいいのに……。
でも、アイドルのライブに貸してくれるとは思えない。
さて、どうしたものか?
飯田橋駅で電車を降りて地下鉄に乗り換える。
その道中、解散ライブのことをぶつぶつ考えながら歩いていると、後ろから前田さんに声をかけられた。
「お兄さーん!」
急に話しかけられて、少し驚いた。
「な、なに?」
「私、毎朝ちゃんとジョギングしてまーす!」
「あ、そうなの……?」
春休みに、僕との卓球勝負で負けて、スタミナをつけるためにジョギングを始めるって言ってたっけ。
でも、なんでそんなにアピールしてくるの?
「かなりスタミナついたので、もうお兄さんと卓球しても負けませんよー!」
「ああ……そう……」
一ヶ月程度でそんなに変わるものなのか?
「今度、リベンジマッチしてください!」
「ええー……いやだよ」
僕は当然、拒否する。
「お兄ちゃん、対戦してあげなよ」
妹が絡んできた。
「前にやったから、もういいだろ?」
「お兄ちゃん、負けるのが怖いんでしょ?」
「別に……」
「だったらリベンジマッチしてくださーい!」
前田さんが畳みかけてくる。
「もう、前田さんの不戦勝でいいから」
「そんなこと言わずにー!」
「ほら、地下鉄乗らないと、いつまで経っても帰れないぞ」
僕はそう言って、強制的に会話を終わらせた。
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