僕と毛利さんは支倉君の後について、1年生の教室へ向かう。
“てさぐり部” を設立したがっている生徒に対して、どさくさに歴史研への勧誘をするためなのだ。
目的の教室の前に到着したのだが、ずいぶんの教室の中が騒がしいな。
“てさぐり部” を設立したがっている生徒って3~4人とか聞いていたが、もっと大勢に話し声が聞こえる。
支倉君が扉を開けると、中では7、8名の女生徒が、教室の窓ぎわの一角の席に座って、何やら楽し気に会話をしていた。
そして、教室に入って来た僕ら気が付くと嬉しそうに声を上げた。
「支倉君! こっちこっち!」
「早く! 早く!」
「武田先輩もいる~!」
「ゲラゲラゲラ」
何事だ?
この女子たちは、一体なんだ?
「ああ! 遊び人研究会のメンツも来たんだね!」
支倉君が女子たちの顔ぶれを見て言った。
なるほど。
ということは、 “てさぐり部” と“遊び人研究会“を作りたがっている女子たちが一堂に会しているということだな。
大人数の女子は特に苦手だが、歴史研の部員勧誘のために頑張るしかない。
彼女たちの近くの空いている席に僕らは座る。
女子たちは一斉に僕に視線を向けて、何を話すか待っているようだった。
「ええと…」
たしか、支倉君は、『彼女たちが作ろうと思っている部活のヒアリングをする』と言って彼女たちを集めたんだよな。まずはそれに合わせて話を始める。
「き、き、君たちは…、“てさぐり部” と“遊び人研究会“を作りたいと思っているんだね?」
「ああ、それは、もういいんです!」
一番近くに座っていた、ツインテールの女子が言った。
「へ?」
予想外の回答に僕は驚いた。
「私たちは、一緒に、別の新しい活動をしようと思っているんです!」
そう言うと、ツインテール女子はいきなり立ち上がった。
「あ、そ、そうなの…? で、それはなに?」
僕は少々困惑しながら尋ねた。
「私たちは武田先輩を盛り上げようと思っています!」
「は、はあ?! 僕を?!」
何、言ってんの? この子は?
「私たちは、雑司が谷高校一のモテ男である武田先輩の親衛隊みたいなものです!」
「し、親衛隊? そ、それは、ファンみたいなもの?」
「ま、言ってみればそういうことです」
「ちょっと待ってよ、なんで、そんなことになるんだよ!? 僕のファンって…??」
ツインテール女子以外も次々と話をしてくる。
「だって、私たち新聞部のXを入学前から見てて、武田先輩の活躍を楽しく見てたんです」
「入学してみて、同じように武田先輩にお近づきになりたいと思っている仲間がいることがわかって」
「そもそも、“遊び人研究会”も“武田先輩研究会” みたいなものだったんです」
いや、僕は遊び人じゃあないんだが…。
「と、言う訳で!」
ツインテール女子が宣言するように言う。
「私たちは、“TOS団” を立ち上げます!」
「え? “TOS団”って何のこと?」
「“武田先輩を大いに盛り上げる西園寺晴美《S》の団” !」
「西園寺晴美ってだれ?」
「私のことです!」
そう言って、ツインテール女子は胸を叩いた。
「TOSって、“とっても大昔のサイエンティスト”の略かと思ったよ」
「なんですか、それは?」
「い、いや…、なんでもない」
「ともかく! 私が団長で活動しますので、武田先輩! よろしくお願いします!」
西園寺さんが言うと、他の女子たちも一斉に挨拶する。
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
「い、いや、そんな活動、部活として学校が認めるわけないでしょ?」
人数だけは要件クリアなんだけどなあ。
「別に学校に認められなくてもいいんです! 私たちは勝手に活動するだけですから!」
「あ、そうなの…?」
でも、まてよ…。
彼女たちが僕のファンということなら好都合。
みんな、歴史研に入ってくれるんじゃあないか?
僕は早速、尋ねる。
「ところで、君たち、歴史研に入部しないか?」
「「「「「え~、ヤですよ~」」」」」
女子たちは、一斉に答えた。
なんでだよ!?
「歴史に興味ないですし…」
「地味~」
「お城にも興味ないし」
「ゲラゲラゲラ」
僕は畳みかける。
「部費で、タダで、旅行出来るんだよ」
「休みの日は家で寝てますー」
「私たち、インドア派なんですよ」
「エアコン、サイコー」
「ゲラゲラゲラ」
この子たちは、本当に僕のファンなのか…?
その後も、何のためにもならない会話が続き、30分ぐらいで解散となった。
教室を後にして、支倉君は新聞部部室に行くからと別れ、僕と毛利さんは一緒に校舎を出て下校することにした。
帰り道、毛利さんが不機嫌そうに言う。
「純也君のファンクラブができてよかったね」
やれやれ、また面倒臭いことになった。
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