新学年2日目。
まだ、本格的な授業は始まっていない。
ホームルームでは、各委員の選出の時間となっている。
暫定的に日直が選出のための進行役をやり、担任の島津先生は進行を静かに見守っている。
当然ながら誰も委員なんてやりたくないから、押し付け合う感じとなっている。
そんな中、まずはクラス委員長の選出。
立候補する者がいないので、投票で誰にやらせるか決めることにした。
委員長をやるのは、大抵クラス内で真面目で成績の良い優等生か、ちょっと面白いとか目立っている生徒に面倒な役目を押し付けると言うのが定番の選出。
というわけで投票の結果、不本意ながら僕が選出されてしまった。
もちろん、優等生枠ではなく、目立っている生徒枠だ。
1年生のとき、 “エロマンガ伯爵” の一件以降、いろいろと学校内で話題にされたせいで、いまだに目立ってしまっている。
それは、ほとんどすべて、新聞部の片倉先輩がXで僕のことを面白おかしく投稿しているせいなのだが。
エロマンガ伯爵以前は、もともと僕は地味で目立たなかったので、クラスで役を仰せ使うことは全くなかったから良かったのに…。
決められてしまったのは、しょうがないのでクラス委員長をやるしかない。
でもクラス委員長って、なにをやるかわからないが、島津先生と顔を合わせる機会がふえそうだな。
やれやれ。
その後も、ホームルームは進行し、他の委員も粛々と決まっている。
ほとんどの役が押し付け合いで決まって行ったが、図書委員だけは毛利さんが立候補して就任した。
毛利さん、本当に図書室が好きだよな。
ホームルームの最後に、島津先生から生徒全員に希望の進路とか書く紙が配られた。
僕もそろそろ進路を考えないと…。
進学はしたいと思っているのだが、どこの大学とか、何学部とかなにも決まっていない。
そもそも、やりたいことが何もないのだが。
いや、1日中、自室でごろごろしていたい。
「進路の希望の用紙は、金曜日までに提出。クラス委員長が回収すること」
島津先生は言った。
やれやれ。早速、仕事が出来たな。
放課後、僕と毛利さんは歴史研の部室にやって来た。
別に僕は来る必要は無いのだが、伊達先輩と上杉先輩が本当に来なくなるのか確認のためだ。
あの2人が来ないのであれば、部室も思いのほか快適だ。
ここで毛利さんと2人でゆっくりするのも悪くない。
僕と毛利さんは椅子に座る。
早速、毛利さんが話しかけて来た。
「純也君は、進路、どうするか決めてる?」
「い、いや…。大学には行きたいなとも思っている程度で、細かくはまだ…。毛利さんは?」
「私は司書になりたいから、最初そういう学部に行こうと思っていたんだけど、司書は給与が少ないとか、そもそも職が少ないとかみたいで、どうしようかなって」
「そうなんだ…」
自分のこともロクに考えていないので、毛利さんに適切なアドバイスはできない。
「志望大学は?」
僕は尋ねた。
「第一志望は、面影橋大学」
面影橋大学は私立のトップクラス。
ちなみにあそこは、家から近いので通学が楽だから行ければ行きたいのだが、僕の学力では入学できるか微妙なのだ。
毛利さんなら、入学できそうだよな。
僕は、もっと勉強しないと。
「そういえば、徳川さんは面影橋大学の学生だよ」
僕は言った。
「徳川さんって、前に一緒にお城巡りに行ったアイドルの人だっけ?」
「そうそう。春日局って名前で活動してる人」
「伊達先輩の志望大学も、確かそうだよね」
「伊達先輩なら、どこの大学でも楽勝だよな」
「それより」
毛利さんは話題を変える。
「新入部員の勧誘をしようよ」
他の部はすでに勧誘活動を始めていて、朝から校門前とかに立って声掛けをしているところもあった。
「そ、そうだね」
本当は面倒だからやりたくないが、そう答える。
「それで、チラシを作って来たんだけど…」
そういって、毛利さんはカバンの中から1枚のA5サイズぐらいの紙を手渡してきた。
見ると、歴史研の勧誘のチラシ。
わかりやすく、大き目の文字で紹介が書かれている。
そして、お城のデフォルメされた絵も描かれていた。
可愛い絵だ。
「いいね」
「じゃあ、明日からこれを100枚ほどコピーして、校門辺りで配ろうよ」
「う、うん」
面倒だけど、付き合うか。
チラシ配りで新入部員、入るかな。
部員が入らないと、上杉先輩が 僕のことを 『ひっぱたく』と言ってたからな。
1人ぐらいは入部してほしいものだ。
僕らは、しばらく部室で部員募集の作戦会議をして、コンビニに行ってチラシのコピーをしてから解散した。
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