雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

ご都合主義

公開日時: 2024年8月17日(土) 23:09
文字数:1,992

 演劇部のメンツも全員揃い、ショートムービーの撮影を開始した。

 撮影はスムーズに進み、午後の早い時間にはほとんどのシーンの撮影は終わった。

 残るは、夕暮れの教室でのラストシーンのみとなった。

 というわけで夕方になるまで、少し時間が空いたので休憩することになった。

 皆、撮影で使う予定の空き教室で、椅子に座って休んでいる。僕の隣には雪乃。


 僕も休んでいると、ふと気になった。

 妹たちが学校に見学に来って言ってたけど、来ないな。

 前田さんは卓球部、丹羽さんは柔道部に見学に行くとか言ってたな、校内を回ってるのかな?

 こちらの撮影を見に来ないのは、それはそれでいいのだけど、校内でトラブル起こしてないだろうか。ちょっと気になる。

 そもそも、学校に入っていいのかどうもわからないのに、『いいんじゃな』みたいなことを僕が言ってしまったのが今更ながら気になってきた。

 僕のせいにされても嫌なので、ちょっと様子を見に行ってみるか。


 僕は立ち上がった。

 それを見て雪乃が声をかけてきた。

「トイレ?」


「いや、妹たちが学校に来てるはずなんだけど、様子を見に行こうと思って」


「妹 “たち”?」


「美咲の友達が昨夜から、家に遊びに来て、なんか撮影を見学したいとか言ってたのに来ないし、他の部活も見てたいみたいことを言っていたから、ちょっと気になって」


「へー…。私も行く」

 そういうと雪乃は立ち上がった。


 僕と雪乃は連れ立って、まずは卓球部が練習しているであろう体育館に向かう。


 体育館では、卓球部がいつものように体育館の三分の一ぐらいを占拠して練習をしていた。

 反対側の三分の一を見ると柔道部が床に畳を敷いて占拠して練習をしていた。

 雑司ヶ谷学校は武道場が無いので体育館を利用してるのだ。


 妹たちは4人とも体育館に居そうだな。

 なんというご都合主義。


 以前、生徒会で監査をやった時に校内のすべての部活を監査したので柔道部があるのは知っていたが、実際に活動しているところは初めて見たな。


 体育館内を見回すと、卓球部が練習をしているすぐ近くで、前田さんが卓球部のユニフォーム姿の島津先生と話をしているのが目に入った。

 さらに、その横では、妹が2人の会話を聞いている様だった。

 僕は歩み寄って声をかける。

「美咲」


 妹は振り返った。

「あっ、お兄ちゃん」

 僕の横に雪乃がいるのに気がついて、ちょっと嫌な顔をした。


 僕はそれを気にせず話しかける。

「来てたんだな」


「うん。のぞみんが卓球の話をしているから、待ってる」


 前田さんと島津先生も僕らに気がついた。


「お兄さーん!」

 前田さんは手を振ってきた。


「あら、武田君も来たのね」

 島津先生が話しかけてきた。


「ええ、ちょっと気になったので…」


「ちょっと、やってかない?」

 島津先生は、そう言ってラケット振る身振りをした。


「いえ、遠慮します」


「いろいろ教えてもらってますー」

 前田さんが嬉しそうに言う。


「それは、よかったね」


 しばらく前田さんと島津先生は熱く卓球論議しているのを側で、僕と妹と雪乃は興味深く聞いていた。


 しばらくして、僕らに気づいた福島さんも練習を一旦やめて、僕らのほうに来た。

「武田君、こんにちは」


「ちょうどいいわ」

 島津先生はひらめいたように言う。

「前田さんと私、福島さんと武田君で組んでダブルスをしない?」


「おおー!」

 前田さんは嬉しそうに声を上げた。

「やりたいですー!」


「ええー、やりたくないですー」

 僕は反対した。


「時間、まだあるから、やればいいじゃん?」

 雪乃が口を挟んだ。

「それに、卓球やってる時の純也、かっこよかったよ」


「えっ? 雪乃、僕が卓球やってるところ見たことあったっけ?」


「球技大会で見たじゃん」


 そうだった。


「じゃあ、決まりね」

 島津先生はそういうとラケットをどこからともなく取り出して言った。


 いや、何も決まってないんだが…。


 余っているラケットを半ば無理やり握らされて、僕は卓球台の横に立つ。

 島津先生、前田さん、福島さんも配置についた。

 僕、福島さんVS.島津先生、前田さんの一本勝負。


 雪乃と妹はすぐ横で観戦。


 雪乃が声をかけてきた。

「純也、勝ったらキスしてあげる」


「はあ?!」

 それを聞いて妹は声を上げた。

「お兄ちゃん、負けろ」


 試合開始。

 島津先生と卓球するのは、昨年の歴史研の合宿先の旅館以来。

 相変わらずキレのある玉を返してくる。

 それに比べると前田さんはだいぶ劣るな。まあ、仕方ないけど。

 ハンデとして、ちょうどいいかもしれない。

 と言いつつ僕も、卓球は慣れないので福島さんの足をかなり引っ張ってしまった。


 結果。

 11-7で、島津、前田の勝ち。


 かきたくない汗をかいてしまった。


「お疲れ様、残念だったねキスできなくて」

 雪乃が微笑んで労ってくれる。


「そうだね…」

 と言っても雪乃とはいつもこんな勝負関係なくキスしてるよな。

 そして、この後も撮影でキスシーンがあるし。


 僕らは、相手をしてくれた島津先生に礼を言って、卓球部の練習場所から離れた。

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