僕がサンシャインシティのカフェに入るとすぐに、先に来ていた毛利さんを見つけることができた。いつも座る通路に面した座席。
ここは、以前、毛利さんと図書館での勉強会の後で来たところだ。そして、先週は細川さんと来た。
僕と毛利さんはドリンクをカウンターで注文し、いつもの通路から近い席に着いた。
少し世間話をした後、毛利さんが話題を変える。
「クリスマスは、どうするの?」
雪乃と別れた今、リア充イベントとは全く無縁だ。
「僕にクリスマスに用事があると思う? クリぼっち確定、クルシミマスだよ」
「そう…」
「毛利さんは、デートするんでしょ?」
「えっ? デートなんかしないよ」
伊達先輩とはクリスマスを一緒に過ごさないのだろうか。
この2人は良くわからんな。
まあ、冬休みが始まったら、歴史研のお城巡りで4泊5日の旅があるから、別に良いのかな? でも、2人きりにはなれんよな…。
やっぱり、もう別れたのか?
それを聞くのも何か気が引ける。
あっ、唐突に思い出した。
「そう言えば、クリスマス当日には織田さんの舞台があるから、見に行こうと思っているよ。毛利さんも行くって言ってたよね?」
危うく織田さんの舞台を忘れるところだった。
「うん、行く」
毛利さんは話を続ける。
「舞台、昼間でしょ? その後、プラネタリウムに行かない?」
「え? プラネタリウム?」
「ほら、東池の学園祭に行ったとき、約束したでしょ?」
そう言えば、そんなことを約束をしたような気がする。すっかり忘れていた。
何とか記憶を辿って答える。
「サンシャインシティの“プラネタリウム満天”だっけ?」
「うん」
「いいけど」
まあ、クリぼっちよりましだろう。
などと、しばらく世間話をしていると、近くから僕の名前を呼ぶ声がした。
「武田さん」
声の方を向くと、そこには、なんと宇喜多姉妹が立っていた。
メガネに黒髪三つ編みの姉、茶髪で姉より背が少し高い妹。
僕はちょっと驚いた。
「あっ! 宇喜多さん! こんにちは」
宇喜多姉が話しかけてきた。
「お久しぶりです。お元気ですか?」
彼女に会うのは東池女子校の学園祭以来だ。
「ええ、元気です」
僕は答える。
宇喜多姉に会えて、ちょっと嬉しい。
「デートですか?」
「いやいやいやいや、違いますよ」
次に宇喜多妹が挨拶をしてくる。
「先週はどうもでした」
「こちらこそ」
宇喜多姉が話を続ける。
「先週、合コンだったんですてっね。妹が、そちらの新聞部の方を紹介していただいて、SNSの運用方法をいろいろ教えてもらったのを、聞きました」
「そうなんですね」
片倉先輩、合コンで何の話をしてたんだよ。
「それで、うちの生徒会のSNS運用の参考にしようと思っています」
「それは良かった」
片倉先輩のツイッターが参考になるとは思えないが、宇喜多姉が参考にすると言うのであれば、それで良いのであろう。
「武田さんが、その方を連れてきてくれたおかげです。ありがとうございました」
宇喜多姉は丁寧に頭を下げた。
「いやいや。大したことしてませんよ」
かしこまって礼を言われると、こちらも恐縮してしまうな。
偶然、懸念事項だった宇喜多姉にSNSの運用方法を教えるというミッションがクリアになっていた。
しかし、お近づきになる理由が消えたな…。
「お邪魔になると悪いので、これで失礼します」
そう言って再び頭を下げると、宇喜多姉妹は去って行った。
一部始終を見ていた毛利さんが尋ねた。
「いまの2人、誰?」
「メガネの人が、東池女子校の生徒会長。もう1人はその妹」
「合コンとか言ってたけど?」
「妹の方が、先週の合コンに来てたんだよ」
「ということは、学園祭でアイドルステージに出てた人?」
「そうだね」
「どこかで見たことあると思った」
そして、不満そうに続ける。
「なんか、嬉しそうだね」
「そ、そんなこと無いよ」
僕は、ごまかす。
まあ、宇喜多姉に会えて嬉しいけどな。顔に出てたか。
そして、その後、30分ほど世間話をしてから毛利さんとは別れ、帰宅した。
帰宅すると、自宅の居間で妹に声を掛けられた。
「お兄ちゃん、今日の合コン、最悪だったよ!」
まあ、隣がずっと僕だったからな、不満はわからないでもないが。
それでも言い返しておく。
「お前のくじ運が悪いだけだろ」
「人生初合コンだったのにー! 私が隣で、お兄ちゃんも面白くなかったでしょ?」
そう言えば、歴史研の女子3人も人生初合コンだったのでは?
しかし、あんまり盛り上がらなかったから上杉先輩も、もう合コンやろうって言わないのではないか?
ということは、今後、面倒な合コンの幹事をやらされることはないだろう。
僕にとっては、盛り上がらなくて逆に良かったということになる。
「いや、別に。良かったんじゃない」
「なんで?! 私とずっと一緒で良かったってこと?」
「いや、そうじゃない…」
「私たち、兄妹だよ! キモイ!」
妹は真っ赤な顔で激怒して自分の部屋に戻っていった。
勘違いしてるな。
まあ、どうでも、いいや。
その後は、自宅でのんびり過ごした。
そして、明日、日曜日は予定が何もないので、引き続き自室に籠ってゆっくりすることにする。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!