雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

中庭のベンチにて

公開日時: 2025年1月15日(水) 22:15
文字数:2,626

 翌日の昼休み。

 金曜日ということで、雪乃、毛利さんとのお弁当交換会。

 僕らは中庭のベンチに並んで座って、会話をしながら弁当を食べる。

 話題は昨日の食堂のミュージカルについて。


 僕は尋ねた。

「昨日のあれって、音楽はどこから流したの?」


「ああ。あれは、放送部にお願いして校内放送用のスピーカーから流してもらったのよ」


「そうなんだ…」


「放送部は、生徒会で元部長の佐竹さんと顔見知りだからね。事前にお願いしていたのよ」


「佐竹先輩か…。そう言えば、そうだったね」


 毛利さんが横から会話に割り込む。

「純也くんとキスしてるの、雪乃ちゃんばっかりだよね」


「そういえば、まだ、歩美と純也はキスしてないんだよね? さっさとやっちゃいなよ」


「い、いや。本来は軽々しくキスするもんじゃあないし。それに、そういうことをする場所も無いし」

 僕は答えた。


「場所なんていくらでもあるでしょ、空き教室とか? やる気があれば、人の目なんて気にならないよ」


「いや、毛利さんは雪乃とは違うって、人目を気にするんだよ」


「もう。めんどくさいなー」

 雪乃は呆れたように言う。

「そもそも、今、歴史研の部室って2人きりなんでしょ? 人目、無いじゃん?」


 そういえば、そうだったな…。

 しかし、最近気になっているのは、毛利さんと悠斗の関係だ。

 バレンタインデーで、毛利さんが悠斗にチョコを渡し、その後も2人で仲良く話をしているところを何度か見た。

 悠斗と毛利さんが良い感じになりつつあるのであれば、水を差すようなことをしたくないのだが。

 実のところ2人の関係性は、どうなのだろうか?

 本人たちに聞くのも気が引けるのだが、やはり悠斗にでも聞くしかないのだろうか?


「純也、どうしたのよ。ぼーっとして」

 雪乃が話しかけて来た。


「い、いや、なんでもない」

 と僕が答えた時、1人の女子生徒が早歩きで近づいてきて、僕ら3人が座るベンチの前で立ち止まった。


 僕が顔を弁当箱から上げると、そこにはメガネをかけ真面目そうな長い髪の女子生徒。

 風紀委員の今川さんだ。


「ねえ。あんたたち」

 今川さんは強い口調で話し始めた。

「昨日のアレ、やり過ぎじゃない?」


「“アレ” って?」

 雪乃が尋ねた。


「昨日の食堂でやったことよ」


「ああ、演劇部の宣伝のことね」

 雪乃はそう言うと、今川さんのことを気にしないように弁当を食べ続けた。


「公共空間で、破廉恥なことをして、恥ずかしくないの?!」


「別にー」


「しかも、食堂のテーブルに土足で上がったそうじゃない!?」


「すぐに、ちゃんと拭いて綺麗にしたよ」


「あんたみたいなのが、生徒会長になったら、学校が乱れまくりだわ! 絶対に会長にはさせないから!」

 今川さんはそう言うと、早足で立ち去った。


「今川さん、めっちゃ怒ってたね」

 僕は、今川さんの姿が見えなくなると言った。


「モテないひがみよ」

 雪乃は弁当を食べながら言った。


「今後は、あまり派手なことはやらない方がいいんじゃない?」

 僕としても、大衆の前でキスとか恥ずかしいのでやめてほしいからな。

 この件は、とりあえず今川さんに賛同する。


「そうねえ…。まあ、演劇部の宣伝はあれでおしまいだから、大丈夫じゃない?」


「なら良いんだけど…」


「それより」

 雪乃は話題を元に戻す。

「純也と歩美のキスの話よ」


 その話するの?

 雪乃は続ける。

「前も言ったけど、私の部屋でしたら?」


「そんなこと言ってたね」


「私の部屋だったら、だれの目にもつかないでしょ?」


「い、いや。雪乃の部屋で、毛利さんとキスするというのは、いろいろ難点があるとおもうんだけど?」


「なんで? 私は気にしないわよ」


「僕は気になるなあ」


「歩美は?」

 雪乃は毛利さんに尋ねた。


「うーん…」

 毛利さんも難色を示している。


 まあ、当然だろうな。


「キスはともかく、来週のどこかで、私んちに遊びに来ない?」


「まあ、遊びに行くぐらいなら…」

 僕は承諾した。


「私もいいよ」

 と毛利さん。


 とりあえず僕と毛利さんが、雪乃の部屋に行くことが決まった。

 あそこに行くのは、年明けすぐに行った以来だ。

 また波乱の予感がするが、その時はその時の僕に乗り切ってもらおう。


 弁当を食べ終わった頃、別の女子生徒が歩み寄って来た。

 髪を肩ぐらいまで伸ばし、長めの前髪を赤いヘヤピンがトレードマークのメガネ女子。新聞部の新部長である小梁川さんだ。

「武田くん」


「なに?」


「来週の月曜。4月14日だよ」


「え? 4月14日? なんだっけ?」


「忘れたの?! “P”の犯行予告の日よ!」


「ああ! そうだった! 何が盗まれるのか情報が入ったの?」


「いいえ。あれから、なにも新情報が無いから、なにか盗まれるのを待つ状況のままだけど」


「そうか…」

 僕は肩を落とした。


「14日に何か盗まれるとして、新聞部に情報が入って来るのは15日以降ね。それで」

 小梁川さんはちょっと嬉しそうに話を続けた。

「4月14日ってブラックデーでしょ? 折角だから大久保あたりで、“P”の対策会議をかねてジャージャー麵でも食べに行こうと思うんだけど、武田君も行く?」


「はあ? ジャージャー麺?」


 以前、コーラス部の井伊先輩から、2月14日のバレンタインデー、3月14日のホワイトデーとは無関係な寂しい人たちが、4月14日にジャージャー麵を食べる習慣が、韓国にあると聞いたのを思い出した。

 韓国の習慣だから、コリアタウンの大久保に行けばジャージャー麺があるということだな。


 だが、しかし。

 僕はバレンタインデー、ホワイトデーに無関係な寂しい人ではない。

 そして、小梁川さんは寂しい人なのだろうか?

 小梁川さんは僕の心を読み取ったように言う。

「別にバレンタインのチョコをもらってても、ジャージャー麵を食べに行っても問題ないわよ」


「ま、まあ、そうなんだろうけど」


「その会議には、成田さんも誘っておいたから」


「成田さん? 将棋部の? なんで?」


「だって、彼女も“P”のことを追跡してるんでしょ?」

 そして、小梁川さんは毛利さんにも声を掛ける。

「そういえば、毛利さんも“P”の犯人探しに興味あるよね? 一緒に行く?」


「行ってきなよ」

 織田さんが割り込んできた。

「月曜、私は演劇部があるから行けないけど」


「うん、行くよ」

 毛利さんは答えた。


「じゃあ、来週、武田君を借りるわね」

 小梁川さんは笑顔で答えた。


「なんだったら、武田君をいくらでもしゃぶってもいいから」

 織田さんが、とんでもないことを言う。


「それは遠慮しておくわ」

 そういうと小梁川さんは立ち去った。


 僕の意思はさほど関係なく、ジャージャー麵を食べに行くのが決まった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート