雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

膝から生える

公開日時: 2025年1月9日(木) 21:37
文字数:2,260

 翌日の放課後。

 今日は、先週、定期的に開催されることに決まった生徒会長選挙の選挙対策会議だ。

 というわけで、生徒会室に立候補予定の雪乃を筆頭に、現会長の伊達先輩、ほか生徒会役員の松前先輩、佐竹先輩に、新聞部の小梁川さん、一応肩書きだけの副会長である僕、雪乃が当選のあかつきには書記として役員に入る予定の毛利さんに加えて、雪乃の陽キャ仲間のミユとかいう女子もいた。


 毛利さんは、ノートにそれぞれの発言をまとめている。

 もう、書記の仕事を始めているのか。

 そして、ミユとは以前、女子トイレでボコられた一件があったので、あまり顔を合わせたくないのだが、もともと雪乃の親友で今回の選挙の手伝いをするらしいので、仕方なく一緒の空間にいる。


 話題は、昨日、歴史研の部室でも話題になった、男子生徒のスカート着用について。

 ここにいるメンバー全員は、別に構わない、というスタンスだが、もう1人の立候補予定者である風紀委員の今川さんは難色を示しているという。


 雪乃が発言する。

「そもそも校則に男子生徒のスカート着用可と記載がないので、校則に反映させるのがいいと思います! そうすれば、いやでも納得するでしょう」


「意義なーし」

 全員が答える。


「これで、この件はクリアですね」


「それ以外に他の目玉になる公約は、ないのかしら?」

 伊達先輩が質問をした。


「目安箱の認知を広めて、生徒たちから幅広い意見を集めて、良いものは反映するというのはどうでしょうか?」

 雪乃は答える。


「目安箱は今でもあるけど、あまり活用されてないから、悪くないわね。私はトップダウンでやってきたけど、ボトムアップ型の生徒会も悪くないわ」


「目安箱ってあったんですね」

 僕は尋ねた。


「ええ。職員室の入り口の横に置いてあるけど、今は、あまり知られてないから、投書もほとんどないわ」


 職員室のところに、そんなのあったっけ??


「逆にたくさん投書が来すぎて大変になることはないの?」

 ミユが尋ねる。


「なるべく生徒全員に関わることで、出来そうなことから優先的にやっていく程度で良いと思うのよ。どれぐらい投書されてくるかもわからないし」


「投書が反映されて、学校が良くなったとなれば、自ずと目安箱の価値も上がっていくと思うわ」

 伊達先輩が答えた。


「では、目安箱の件はそれで行きたいと思います」


「あとは、屋上の開放や生徒会主催のイベントを年間を通じてやりたいと思っています」

 雪乃は追加する。


「屋上の開放は、転落防止の対策をしないといけないわね」

 伊達先輩が言う。

 屋上の利用は、部活で利用するときなどに限られていて、一般生徒が自由に使えると言うわけではない。

 現在、屋上には高い柵はあるが、さらにその上に有刺鉄線をめぐらせるなどの対策が必要なのでは、という意見も出た。


「生徒会主催のイベントって具体的には、なに?」

 僕は尋ねた。


「ハロウィン時期には仮装大会とか」

 雪乃は答えた。


 陽キャはそう言うの好きだよな…。

 ハロウィン時期の街の騒ぎようときたら、僕は苦手だ。

 それにしても、そんなの学校でやることか?


「運営が大変そうね」

 伊達先輩がコメントする。


「大丈夫です。私、演劇部でこういうイベントの仕切りはやってますから!」

 雪乃はいう。

「それに、いざという時は純也が頑張ってくれます!」


「えっ?!」

 僕は驚いた。

「僕にはできないよ」


「アイドルグループのプロデューサーやってるじゃん?」


「あれは、肩書きだけで、実際は雑用。それにプロデュースはイベント運営とはちがうでしょ?」


「似たようなものよ! 大丈夫だって! 学校は楽しくないと!」


 雪乃は笑顔で言うが、全然大丈夫じゃあないのだが、結局、流れでやらされてしまいそうだ。

 それに、ハロウィンの仮装大会が楽しいかどうかは、人によるよなあ。


「あと、別に気になることがあるの」

 佐竹先輩が言う。

「生徒会役員候補に男子が少ないことよ。今のところ武田くんだけでしょ?」


「僕が、役員になるのはまだ承諾してないのですが」

 と僕は言うが、みんなはそれが聞こえなかったように話を進める。


「最低もう1人は男子が欲しいわね」

 佐竹先輩が続ける。

「前にあったような、妨害とかあると面倒だから」


 昨年、生徒会長選挙で対立候補だった北条先輩が、妨害工作をしようとしたことがあった。僕だけ被害を被ったが。


「もう1人の男子の件は、アタシのカレピに聞いてみるわ」

 ミユが言った。


「じゃあ、お願い」

 雪乃はミユに依頼し、他にも細々した内容の話し合いをした後、選挙対策会議は終了した。


 今日のところは解散になった。

 ミユが立ち上がって僕に近づいてきた。また蹴られたらたまらんと、僕はちょっと身構える。


「ねえ。この前はタマタマ蹴っちゃってゴメンねー」

 ミユは軽い調子で謝ってきた。


「ま、まあ…、あの件はもういいよ」


 そこに雪乃が割り込んできた。

「私の大事なタマタマなんだから、もう蹴ったらダメだよ」


「もうやらないよ。これ以上、タマタマ蹴ると、膝から生えてきそうだから」


「なにそれ。キモイ」

 雪乃とミユは爆笑する。

 何が面白いんだ?

 そして、女子が平気でタマタマとか言うなよ。


「じゃ、これからもヨロシクねー」

 ユミはそう言うと生徒会室を出て行った。


 あのミユとかいう女子、苗字をまだ知らないな。


「あと明日の昼休みなんだけど」

 雪乃が付け加えた。

「一緒に食堂で食べようよ」


「え? いいけど?」

 お弁当交換会の金曜日以外で雪乃と昼食を食べるのは珍しい。

「でも、なんで?」


「秘密」

 雪乃はそう言うと、笑顔で去って行った。


 また面倒なことじゃあないだろうな。

 僕は不安を覚えつつ、生徒会室を後にした。

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