週末のショートムービーの撮影は、驚くほど順調に進んでいる。
元々、余裕を持ったスケジューリングだったそうだが、この調子だと1日早くクランクアップすることができそうだという。
僕としては、来週の日曜日が休みになるのは嬉しいことだ。
最近は休みだしだったからな。
明けて月曜日。
そんなわけで疲れてはいるが、何とか登校する。
春休みも近いので、授業は消化試合の様相。
気温も暖かくなってきたし、僕は疲れもあって授業中ちょっと寝てた。
昼休み。
今日も僕と毛利さんは、教室で一緒にいつものように弁当を食べている。
ホワイトデーの放課後に、楽し気に会話としていたという毛利さんと悠斗の関係が気になるところだが、その話はせずに当たり障りのないTVやネットの話題をして過ごす。
弁当を食べ終えたころ、教室に予想外の人が尋ねて来た。
新聞部次期部長の小梁川さんだ。
「武田君」
小梁川さんは、僕と毛利さんの隣に立つと話しかけてきた。
「や、やあ。こんにちは」
僕はちょっと驚いて顔をあげる。
「やられたわ」
「え?」
「“P”よ」
「えっ!?」
僕は驚いて、思わず声が大きくなった。
「何を盗られたんですか?!」
「コーラス部が楽譜を盗られたって情報を入手したの」
「楽譜?」
「そうよ。予告通り3月14日に盗まれたようなのよ。コーラス部はノーマークだったから、新聞部に情報が入って来たのは今朝」
「どうして、楽譜なんかを?」
「“P”が何を考えているのか、全く分からないわ」
「そうか…」
「この件で、放課後にコーラス部に取材に行くんだけど、武田君も行く?」
「うん、行くよ」
「じゃあ、授業が終わったらすぐに音楽室前に集合ね」
「音楽室?」
「そうよ、放課後は音楽室がコーラス部の部室になるのよ」
「そうか、わかった。毛利さんも行くよね?」
僕は、毛利さんに尋ねた。
「うん、行くよ」
毛利さんは静かに答えた。
「じゃあ、待ってるわね」
そう言うと、小梁川さんは教室を去って行った。
彼女の後ろ姿を見送った後、僕は毛利さんに話しかけた。
「“P”がコーラス部から、なにか盗むようなヒントがあったかな?」
毛利さんは、しばらく少し考える風に首を傾げた。
「うーん…。楽譜のタイトルが“CROWN”だとか?」
「あり得るね。放課後、確かめてみよう」
「そう言えば、ホワイトデーの当日には服飾部に行ってたんでしょ? どうだったの?」
「うん。でも、何事もなかったよ」
「そっか…。でも、やっぱり成田さんかもしれないね」
「僕は、成田さんが犯人だとは思わないけどな」
「そうかな?」
「そうだ! たしか、ホワイトデーの当日に成田さんと上杉先輩が将棋対決をしているはずだ。これは強力なアリバイだと思うけど、その対決に新聞部の片倉部長も立ち会っているはずだから、放課後に確認してみよう」
「うん、わかった」
”P”のヤツ、本当に神出鬼没だな。
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