翌日の昼休み。
僕と毛利さんは、いつものように机を並べて一緒に弁当を食べていた。
世間話の途中、毛利さんが尋ねてきた。
「ところで、お城巡り、どうする? どこか行く?」
そうだった。
歴史研の活動で日本100名城巡りをしなければならないのだ。
僕らが2年生になってからもう1か月。
しかし、新しい部員が入らないまま、4月が終わってしまう。
僕は少し考えてから答える。
「うーん…。でも、新しい部員が入ってからの方がいいかも」
「でも、部員が入らなければ、スケジュールが後倒しになって、後々、大変なことになりそう」
「確かに、そうだね…。じゃあ、どこか行く? まだゴールデンウイークだし、今週末から月曜、火曜と4日間休みがあるから、結構回れるかもしれないね」
「でも…、私たち2人で泊りがけって、許可が下りるかしら?」
「あっ…」
僕と毛利さんの2人きりで泊まり…。
そういうことになったら、楽しい展開になるかもしれないな…。
ゴム持っていこうかな、箱で。
いや。そもそも許可が下りないかもしれないが。
「放課後に島津先生に聞いてみるよ。許可が下りたら、どこに行くか、例の“ノート”を見ながら考えるよ」
僕が部長に就任したとき、歴史研のお城巡りのルートを書いたノートを引き継いだので、それを見ればいいだろう。
まずは、島津先生に話をしなければ。
そして、許可が下りたら、旅費の相談もしないといけないな。
そんなわけで放課後。
毛利さんは図書委員の仕事があって、図書室に行ってしまったので、僕1人で職員室の島津先生に話をしに行く。
緊張しつつ職員室に入るが、島津先生の姿が見えない。
どこ行ったんだろう…?
そうか! 島津先生は卓球部の顧問だから、卓球部が練習している体育館かもしれないな。
というわけで、職員室を後にして体育館に向かう。
そこでは卓球部と、見たこともない競技をやっている一団が、体育館を半々で分け合って練習をしていた。
僕は体育館の中を見回す。
すると、壁際で卓球部の練習を見ている島津先生を発見したので、ゆっくりと近づいた。
「島津先生」
僕は声を掛けた。
島津先生は僕を見て微笑んだ。
「あら、武田君。卓球部に入部かしら?」
「いえ、違います」
このやり取り、何回目だ?
僕は、やれやれと思いつつも本題に入る。
「歴史研のお城巡りの件です。ゴールデンウイークの後半を使って、どこかに行こうかと思うのですが…」
島津先生は怪訝そうな表情になって言う。
「歴史研って、まだ新入部員がいないでしょ? 武田君と毛利さん2人きりで泊まりの旅行は許可できないわ」
まあ、そうだろうな。
とはいえ、ちょっと期待してた僕は肩を落とした。
島津先生は続ける。
「日帰りだったら構わないけど」
「日帰り…、ですか?」
日帰りで行けそうなお城が残っていたっけ?
遠い場所のお城ばかりが残っていたような気がするが。
「じゃあ、どこがいいか調べてみます」
僕は軽く会釈をして、島津先生から離れた。
体育館の出口のあたりまで移動して、卓球部でないもう1つの部活の様子が気になったので、それを見ている。
バレーボールで使うようなネット越しにボールを激しく蹴り合っている。
あんな部活あったっけ? 何というスポーツだろう?
しばらく見ていると、背後から声を掛けられた。
「武田先輩! 探しましたよ!」
僕が振り返ると、支倉君が立っていた。
僕は目の前のスポーツについて支倉君に尋ねる。
「あれって、なんてスポーツか知ってる?」
「知ってますよ! “セパタクロー” です!」
「セパ…? 何?」
「セパタクローです。あれは、マイナースポーツ研究部ですよ」
「ああ…。そんな部があったような気がする」
「その名の通りマイナースポーツばかりやってるんです」
「へー」
支倉君、入学して間もないのによく知ってるな。
さすが新聞部。
「マイナースポーツって、他にどういうのがあるの?」
「ワタシも、すべては知りませんが、マイスポ研では、“カバディ”とかもやってるそうです」
「ふーん…」
全然知らないや。
そして、マイスポ研って略すんだ。
「それで、武田先輩はなぜ体育館に?」
支倉君は話題を変えた。
「ああ…、島津先生に用があったので、ここに来てたんだよ」
「なんの用ですか? 卓球部に入部でもするんですか?」
「しないよ。歴史研のお城巡りについて相談してたんだ」
「そっか、島津先生は歴史研の顧問でもありましたね。で、お城巡り、行くんですか?」
「うん。日帰りだったら良いといわれた」
「どこに行くんですか?」
「これからどこにするか決めるよ」
「ワタシも行っていいですか?」
「え? まあ、良いけど…。旅費はそっちでもってよ」
お城巡りまで密着取材するのかよ。
「旅費は何とかします! じゃあ、どこに行くか決まったら、旅費のおおよその金額を教えてもらえますか?」
「わかった」
僕は例のノートが自宅に置いてあるので、いったん帰宅することにし、ここで支倉君と別れた。
自宅に着くと、一息ついてジュースを飲みながらノートをめくって見る。
行っていないお城で、一番近そうなのは…。
長野県の高遠城。
ノートには、日帰りコースが書いてある。
行程は高速バスを使うのか、初めてだな。
ここで良さそうなので、2年生になって初のお城巡りは、高遠城にしよう。
毛利さんには、LINEで高遠城に行くことをメッセージしておいた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!