科学部が活動している理科室の後は、卓球部のいる体育館だ。
そんなわけで、体育館にやって来た。
今日は、体育館の3分の1を卓球部が、3分の2をバレーボール部が使っていた。
バレーボール部ってあったんだっけ…?
僕は、体育館の壁際に進み、卓球部が練習をしているところに向かう。
様子を見ると、なんか熱心に練習中だから、声を掛けるのは迷惑かな?
僕は体育館の壁に寄りかかって、卓球部の練習の様子をしばらく見学をしていた。
しばくらして、卓球部の羽柴部長に気付かれた。
そして、ニヤつきながら、僕の方に近づいて来る。
「やあ、武田君。ついに卓球部に入部しに来たのかい?」
羽柴部長は、嬉しそうに尋ねて来た。
僕は羽柴部長の質問の少々困惑しつつも答える。
「いえ、違います…」
「そうかい? そんなこと言わずに、僕と一緒にドイツでプロを目指さないか?」
ドイツには卓球のプロリーグがあるのだ。
羽柴部長はそれを目指している。
「いやいや。ドイツにはいきませんよ」
「ドイツのサウナには混浴があるんだよ?」
「混浴で釣ろうとしても、卓球はしません」
「やっぱり無理か」
羽柴部長は声を上げて笑ったあと、改めて尋ねた。
「で、何の用?」
「えーと…。ちょっと、福島さんに用事があって」
「福島さん? 何の用事?」
「ホワイトデーのクッキーを渡そうと思って」
「へー。そうなの?」
「練習中だから、声を掛けるのは悪いと思って」
「別に話しかけても良いよ」
羽柴部長は、福島さんのほうを指さした。
福島さんは、別の生徒と玉出し練習をしていた。
羽柴部長が良いというなら、声を掛けてみようか。
僕は、福島さんに近づく。
足元には大量のピンポン玉が転がっている。
僕は、ピンポン玉を踏まないように注意深くさらに近づくと、声を掛けた。
「やあ、福島さん」
福島さんともう1人の生徒は手を止めて僕のほうを見た。
そして、福島さんは驚いた様子で尋ねて来た。
「あら、武田君。ついに卓球部に入部しに来たの?」
「いや、違う…。1日早いけど、ホワイトデーのクッキーを渡しに来たんだよ」
僕はクッキーの入った袋を手渡した。
福島さんはそれを受けると礼を言う。
「へー。悪いわね。ありがと」
「ところで…、なんで、バレンタインデーの義理チョコくれたの?」
「それは、ミックスの試合で私と組んでほしいから、賄賂だよ」
「賄賂?! いくら賄賂をもらっても、試合には出ないよ」
「この前、一緒にミックスで練習試合したじゃない? 武田君、良い動きだったから、私と組んで大会で優勝できるかもよ」
以前、前田さんが卓球勝負をしようと、しつこいので卓球場に行ったら、偶然、福島さんと出会って、彼女の友達を相手にダブルスの卓球の試合をしたのだった。
とは言え、福島さんは適当なこと言ってるよな。
「いくらなんでも優勝は無理でしょ?」
「いける、いける」
福島さんは笑いながら言う。
卓球をやるつもりは毛頭ないし、クッキーを渡し終えて任務は完了したので、さっさとこの場を去ることにする。
「じゃあね」
僕は、何か言いたそうな福島さんを気に掛けないいようにして挨拶をし、その場を立ち去る。
やれやれ、任務完了だな。
ほっとしていると、体育館を出たところで歴史研究部兼卓球部の顧問の島津先生とばったり出会う。
「あら、武田君、こんなところにいるなんて…、ひょっとして、ついに卓球部に入部しに来たとか?」
みんな同じこと言うけど、ひょっとして示し合わせてる?
「いえ、ちょっと、用があっただけで…。もう失礼します」
「あら、そう…」
島津先生も何か言いたそうだったが、それも気にしないようにして、体育館から離れる。
それより、島津先生は歴史研には全然顔を出さないよな。
幽霊顧問だな。
さて、お次は赤松さんと山名さんがいる水泳部の部室に向かう。
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