放課後。
怪文書の差出人“P”が、服飾部から何か盗むかもしれないので、服飾部の部室に行かないといけないことになっている。
しかし、その前に蜂須賀さんにホワイトデーのクッキーを渡さないといけないのだ。
僕は、まず毛利さんに別れの挨拶をし、次に服飾部の服部さんに10分ぐらい遅れて服飾部の部室に行くと伝えると教室を後にした。
僕は、やや急ぎ気味に美術教室に向かう。
放課後、美術教室は美術部の部室として使われている。
校舎内を移動して美術教室の前にやって来た。
美術部らしき部員たちも、ゾロゾロと美術教室に入って行く。
その内の男子生徒の1人に声を掛ける。
「すみません、蜂須賀さんは居ますか?」
「いるよ。ちょっと待ってて」
彼はそう言うと一度、美術教室内に入って行く。
少し待つと、中肉中背の女子生徒が出て来た。
彼女の髪型はショートボブだが、半分ピンクで半分金髪の派手な髪色だ。
こんな人いたっけ?
「ええと…。蜂須賀さん?」
「そうだよ」
蜂須賀さんは、ちょっとぶっきらぼうな感じで答えた。
「すごい髪色だね」
思わず感想を言ってしまった。
「うん。最近染めたんだ」
さすがに風紀委員が黙っていないと思うのだが。
僕は尋ねる。
「風紀委員とか大丈夫なの?」
「大丈夫、放課後以外は黒髪のウイッグつけてるから」
「そうなんだ…」
「それで、なんか用?」
「そうそう、バレンタインにチョコをくれたでしょ? だから、ホワイトデーのクッキーを渡しに」
僕はクッキーの入った袋を差し出した。
「そっか。ありがとう」
蜂須賀さんは袋を受け取る。
「ところで、どうして、チョコくれたの?」
「武田君とお近づきになりたくてね」
「えっ? それって…?」
「ああ、勘違いしないで、君のこと好きじゃあないから」
「はあ…」
なんだよ、はっきり言うなあ…。
「ちょっとお願いしたいことがあってね」
「それは、なに?」
また嫌な予感しかしないけど。
「今度お願いするよ。今、描いてる作品を仕上げたらね」
「作品?」
「今、コンクールに出す静物を描いてるからね」
「セイブツ?」
「そう、静物。続きを描かないといけないから。じゃあ」
そう言って、蜂須賀さんは美術教室に戻って行った。
セイブツってなんだろう? 生き物?
とりあえず、今日、学校でクッキーを渡す任務は無事すべて終了した。
僕は、ほっと軽くため息をついた。
そして、服飾部が部室として使っている空き教室に向かう。
その空き教室の扉を開けると、10数名の女子がミシンの準備をしたり、手縫いで作業を始めようとしているところだった。
服飾部は男子は居ないみたいだな。
服部さんが教室に入って来た僕に気が付いた。
「あっ、武田君」
「やあ、来たよ」
「なんか、ゴメンね」
「こちらこそ。でも、悪いのは “P”だから。とりあえず、今日は誰か入ってこないか見てるけど。今のところは、何も盗まれた様子はないよね?」
「うん、大丈夫みたい」
「この後も、何もなければいいけどね」
僕は教室にあった椅子を1つ持ち出して、扉の近くに座った。
しばらく服飾部の作業を見ている。
それぞれが分担して、カラフルなドレスのようなものを作っているようだ。
なんのドレスだろう?
しばらく作業を見ていたが、飽きて来たので自分のスマホをイジったりして、時間をつぶす。
何事もなく時間が過ぎ、下校時間となった。
「誰も来なかったね」
服部さんは、安堵の表情で言う。
「うん。協力ありがとう。ひょっとしたら、“P”は他のところで、なにか盗んだのかもしれない。新聞部も動いているから、なにかなかったか聞いておくよ。ところで…」
僕は、彼女たちが作っているドレスが気になって尋ねた。
「なんの衣装を作っているの?」
「コスプレ用の衣装よ」
「コスプレ?」
「そう、春休みに、この衣装を着て撮影会をやるの」
「へー」
あんまり興味ない。
「これなんかは、まだ途中だけど、『たのまほ』の新しい魔法少女の衣装なのよ」
服部さんは、衣装を掲げて全体を見せてくれた。
『たのまほ』、聞いたことあるな、何だっけ…?
アニメだったかな?
やっぱり興味ない。
服飾部の後片付けまですべて見守る。
作成途中の衣装は、鍵付きロッカーにしまわれた。
鍵が付いているから、この後、ここから何か盗むということはできないだろう。
後片付けがすべて終わると、僕は彼女たちと一緒に教室を出た。
「じゃあ、何もなかったから、先に帰るね」
僕は、服部さんたちに別れを告げて、その場を後にした。
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