雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

ホワイトデー~その4

公開日時: 2024年6月26日(水) 20:35
文字数:1,788

 放課後。

 怪文書の差出人“P”が、服飾部から何か盗むかもしれないので、服飾部の部室に行かないといけないことになっている。

 しかし、その前に蜂須賀さんにホワイトデーのクッキーを渡さないといけないのだ。

 僕は、まず毛利さんに別れの挨拶をし、次に服飾部の服部さんに10分ぐらい遅れて服飾部の部室に行くと伝えると教室を後にした。 


 僕は、やや急ぎ気味に美術教室に向かう。

 放課後、美術教室は美術部の部室として使われている。

 校舎内を移動して美術教室の前にやって来た。

 美術部らしき部員たちも、ゾロゾロと美術教室に入って行く。

 その内の男子生徒の1人に声を掛ける。 

「すみません、蜂須賀さんは居ますか?」


「いるよ。ちょっと待ってて」

 彼はそう言うと一度、美術教室内に入って行く。


 少し待つと、中肉中背の女子生徒が出て来た。

 彼女の髪型はショートボブだが、半分ピンクで半分金髪の派手な髪色だ。

 こんな人いたっけ?


「ええと…。蜂須賀さん?」


「そうだよ」

 蜂須賀さんは、ちょっとぶっきらぼうな感じで答えた。


「すごい髪色だね」

 思わず感想を言ってしまった。


「うん。最近染めたんだ」


 さすがに風紀委員が黙っていないと思うのだが。

 僕は尋ねる。

「風紀委員とか大丈夫なの?」


「大丈夫、放課後以外は黒髪のウイッグつけてるから」


「そうなんだ…」


「それで、なんか用?」


「そうそう、バレンタインにチョコをくれたでしょ? だから、ホワイトデーのクッキーを渡しに」

 僕はクッキーの入った袋を差し出した。


「そっか。ありがとう」

 蜂須賀さんは袋を受け取る。


「ところで、どうして、チョコくれたの?」


「武田君とお近づきになりたくてね」


「えっ? それって…?」


「ああ、勘違いしないで、君のこと好きじゃあないから」


「はあ…」

 なんだよ、はっきり言うなあ…。


「ちょっとお願いしたいことがあってね」


「それは、なに?」

 また嫌な予感しかしないけど。


「今度お願いするよ。今、描いてる作品を仕上げたらね」


「作品?」


「今、コンクールに出す静物を描いてるからね」

 

「セイブツ?」


「そう、静物。続きを描かないといけないから。じゃあ」

 そう言って、蜂須賀さんは美術教室に戻って行った。


 セイブツってなんだろう? 生き物?


 とりあえず、今日、学校でクッキーを渡す任務は無事すべて終了した。

 僕は、ほっと軽くため息をついた。


 そして、服飾部が部室として使っている空き教室に向かう。

 その空き教室の扉を開けると、10数名の女子がミシンの準備をしたり、手縫いで作業を始めようとしているところだった。

 服飾部は男子は居ないみたいだな。


 服部さんが教室に入って来た僕に気が付いた。

「あっ、武田君」


「やあ、来たよ」


「なんか、ゴメンね」


「こちらこそ。でも、悪いのは “P”だから。とりあえず、今日は誰か入ってこないか見てるけど。今のところは、何も盗まれた様子はないよね?」


「うん、大丈夫みたい」


「この後も、何もなければいいけどね」

 僕は教室にあった椅子を1つ持ち出して、扉の近くに座った。


 しばらく服飾部の作業を見ている。

 それぞれが分担して、カラフルなドレスのようなものを作っているようだ。

 なんのドレスだろう?

 しばらく作業を見ていたが、飽きて来たので自分のスマホをイジったりして、時間をつぶす。


 何事もなく時間が過ぎ、下校時間となった。


「誰も来なかったね」

 服部さんは、安堵の表情で言う。


「うん。協力ありがとう。ひょっとしたら、“P”は他のところで、なにか盗んだのかもしれない。新聞部も動いているから、なにかなかったか聞いておくよ。ところで…」

 僕は、彼女たちが作っているドレスが気になって尋ねた。

「なんの衣装を作っているの?」


「コスプレ用の衣装よ」


「コスプレ?」


「そう、春休みに、この衣装を着て撮影会をやるの」


「へー」

 あんまり興味ない。


「これなんかは、まだ途中だけど、『たのまほ』の新しい魔法少女の衣装なのよ」

 服部さんは、衣装を掲げて全体を見せてくれた。


『たのまほ』、聞いたことあるな、何だっけ…?

 アニメだったかな?

 やっぱり興味ない。


 服飾部の後片付けまですべて見守る。

 作成途中の衣装は、鍵付きロッカーにしまわれた。

 鍵が付いているから、この後、ここから何か盗むということはできないだろう。

  

 後片付けがすべて終わると、僕は彼女たちと一緒に教室を出た。

「じゃあ、何もなかったから、先に帰るね」

 僕は、服部さんたちに別れを告げて、その場を後にした。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート