翌日の放課後。
僕と毛利さんは2人で歴史研の部室までやって来た。
今日は支倉君は、新聞部の集まりがあると言うことで密着取材はしてない。
なので、この場にはいない。
僕と毛利さんは部室の椅子に座って、新入部員募集の件で話し合いをしている。
昨日は図書室にいた1年生に声を掛けたが、逃げられてしまった。
帰宅部の生徒に声を掛けるという方法は良くないのだろうか?
部員募集は、完全に行き詰ってしまった。
それでも、めげずに図書室で声掛けをする、再びチラシ配りをやる、2年生でもいいから知り合いに幽霊部員でもいいので兼部してもらう、などなどの方法を考えている。
まあ、知り合いと言っても友達が少ない僕らは、声を掛けられそうなのは数名しかないのだが。
僕らは2時間ほど話し合って、一息つく。
あんまりいい案は出なかったなあ。
最悪、どこかの部と合併するしかないという話も出た。
僕は、歴史研にこだわりがないからそれでもいいんだけどな。
でも、そうなると、もう1つどこか部活を探さないといけない。
歴史研と活動内容が似てそうな部活ってなんだろうな。
毛利さんも無言で何か考えているようだ。
僕は考えるのを止めて、窓の外を眺めてぼーっとしている。
下校時間もそろそろ近づいてきたところで、毛利さんが口を開いた。
「今って、2人きりだよね」
「え? そ、そうだね…」
「キス…、できるよね…」
毛利さんはちょっと恥ずかしそうに言った。
「そ、そうだね…」
改めて良く考えてみたら、今の歴史研の部室はイチャつくに最適の状況だ。
この前、雪乃の部屋でキスできなかったからな。
この状況を有効利用しない手はない。
「じゃあ…、いいかな?」
僕は尋ねた。
「うん」
毛利さんは小さく頷いた。
僕は椅子ごと毛利さんの隣に移動して、彼女の肩に腕を回してグッと身体を引き寄せた。
すると、その時。
ガンガンガン!
部室の扉を強くたたく音がした。
なんだよ、いい時に…。
僕はちょっとムッとして毛利さんから身体を離すと、扉の外に人物に答える。
「どうぞ!」
すると、部室にずかずかと入って来たのは、風紀委員の今川さんと他2名の男女の生徒。
今川さんは開口一番、僕に向かって大声で批難を始めた。
「武田! 昨日、図書室でナンパしてたでしょ!?」
「え?! してないよ!」
「今日、ナンパの被害者から風紀委員に通報があったのよ、昨日、あんたが図書室で女子生徒を物色していたって」
「そ、それは誤解だ!」
「じゃあ、なんで図書室にいたのよ?!」
「あ、あれは、歴史研の部員集めをしようと思って…、だからナンパじゃない!」
「ほんとにナンパしてないのね?!」
「してない!」
横から毛利さんが援護してくれる。
「ナンパじゃあないよ。本当に部員募集してたの」
それでも今川さんは声を張り上げる。
「まったく! 金輪際、図書室で、そんな紛らわしいことしないでよ!」
「わ、わかったよ…」
僕はシブシブ了承して返事をした。
今川さんはぶつぶつ言いながら他の風紀委員と一緒に部室を出て行った。
やれやれ。
「これで、図書室で部員を探すのは封じられてしまったな」
僕は、伸びをするように背を逸らした。
「そうね…」
毛利さんも残念そう。
「まあ、図書室での勧誘は昨日の状況から鑑みてもちょっと難しそうだったし…。いいさ、ほかの方法で部員集め頑張ろう」
「そ、そうだね」
今川さんに水を差されてしまったが、さっきの続きをしようと思って僕は再び毛利さんに近づいた。
「さっきの続きやろうか?」
「う、うん」
僕はまた彼女の肩に腕を回してグッと引き寄せた。
すると、その時。
「武田先輩! 緊急事態です!」
突然、ノックもせずに扉を開けて部室に入って来たのは、今日もスカートを履いている支倉君。
支倉君は抱き合っている僕らを見て、気まずそうに言った。
「あっ…。すみません…。ワタシに構わず続けてください」
「出来るわけない!」
僕は毛利さんから身体を離した。
「それより、緊急事態なんです!」
支倉君は再び言った。
僕と毛利さんのキスの邪魔をして、それより重大なことがあるのか?
僕は尋ねる。
「緊急事態の概要を述べよ」
「お、お、織田先輩が!」
「えっ!? 雪乃がどうかしたの!?」
「ぜ、ぜ、全裸になるそうです!」
「はあ? ぜ、全裸って、なんでまたそんなことに?」
僕は、すごく驚いて再び尋ねる
「なんでも、美術部のヌードモデルになるそうです!」
「ああ…。ヌードモデルね…」
驚いて損した。
「僕も以前、蜂須賀さんにヌードモデルやってくれって頼まれたよ。断ったけど」
蜂須賀さんは、雪乃にもヌードモデルお願いするみたいなこと言ってたし、雪乃ならヌードモデルぐらい引き受けそうだよな。
「あんまり、驚いてませんね」
支倉君はちょっと不満げに言う。
「まあ、想定の範囲内というか」
「ちぇっ…。じゃあ、新聞部の打ち合わせの途中だったんで、今日はこれで失礼します」
支倉君はそう言って立ち去った。
わざわざ、それだけを言いに来たのかよ。
下校時間のチャイムが鳴ったので、僕と毛利さんは部室を後にし下校した。
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