翌日。
朝、登校して教室の席に着くと、悠斗が話しかけてきた。
「純也、おはよう」
「ああ、おはよう」
「奴隷をやってるんだって?」
「なんで知ってんの?」
僕は驚いて悠斗の顔を見た。
「新聞部のツイッターで流れてたよ」
そうか…。
片倉先輩だな。SNSに投稿するのは止めてほしいもんだ。
「純也にそう言う趣味があったとはね」
悠斗は笑いながら言う。
僕は軽くため息をついてから答えた。
「いや、趣味じゃない。やむを得ずやらされているだけだ」
「また、何かに巻き込まれたのかい?」
「巻き込まれたというか…。まあ、そんなところだ」
上杉先輩の胸に触ったからとは言えまい。
「あまり、人目が付くところでやらない方がいいんじゃないか?」
「あれには僕の意志が入り込む余地がないんだよ」
「そうかい。また、風紀委員に目を付けられたら面倒じゃないかと思ってね」
それもそうなんだが、僕にはどうすることもできないので仕方がない。
予鈴が鳴ったので、悠斗は去って行った。
そんなこんなで、午前の授業、昼休み、午後の授業が終わり、放課後。
今日も仕方ないので部室に行く。
今日は毛利さんと一緒だ。
部室の扉を開けると、いつもの様に伊達先輩と上杉先輩が居た。
「来たね」
「いらっしゃい」
「「こんにちは」」
いつもの挨拶を交わす。
僕は椅子に座り、あきらめを含んだ声で尋ねた。
「今日も散歩ですか?」
「そうだね」
上杉先輩は今日もニヤつきながら、机の上に置いてあるピンク色の首輪とリードを取り上げた。
「じゃあ、付けるね」
そう言って、僕に首輪をつけ始めた。
昨日、これを見なかった毛利さんはその様子を見て、とても驚いている様子。
伊達先輩は昨日同様に笑っている。
「あははは」
上杉先輩は声を立てて笑う。
昨日も見たんだから、そんなに可笑しくないでしょ…?
「じゃあ、散歩に行こう!」
「はいはい」
僕は言われたままに立ち上がった。
そして、上杉先輩にリードで繋がれながら廊下に出た。
僕が先に歩き、後を上杉先輩が付いて来る。
今日は誰にも見られないといいなあ…。
階段を降りて1階へ。
廊下を移動。今日もげた箱あたりで数名の生徒に見られた。
廊下の端で階段を上がり2階へ。
今日も幸い廊下には誰もいなかった。
続いて3階へ。3階でも誰にも見つからず通過できた…、と安堵していると、階段の直前で聞きなれた声で名前を呼ばれた。
「純也?」
目線を上げると、目の前に雪乃が立っていた。
「何をやってるの?!」
雪乃はとても驚いた表情で尋ねた。
そりゃ驚くよな。
「いや…、ちょっと事情があって」
「事情って?」
「1か月、上杉先輩の奴隷をやることになって…」
「奴隷?!」
「そう」
「ふーん…。純也にそういう趣味があったなんて。私もそんなプレイ、まだやったことないのに」
「いや、趣味とかプレイじゃない」
「今度、私にもやらせてよ」
「いや、断る」
「良いじゃん、やってもらったら?」
上杉先輩が割り込んで来た。
「いやいや、なに言ってるんですか?」
「アタシの命令ってことにすれば、1か月以内だったら出来るよ」
上杉先輩は雪乃に向かって言った。
余計な事を言うなよ。
「そうなんですね。しばらくは演劇部の練習があるから、落ち着いたらお願いします」
雪乃もやる気になるなよ。
「じゃあ、また」
そう言って雪乃は去って行った。
僕と上杉先輩は階段を登って4階へ。
再び歴史研の部室に戻って来た。
僕と上杉先輩は椅子に座る。
「良い運動になったね」
上杉先輩は満足そうに行った。
「そうですね」
僕は適当に相槌を打つ。
「今、階段で武田君の彼女に会ったよ。織田さんだっけ」
上杉先輩は伊達先輩に報告する。
「あっ、僕、雪乃…、織田さんとは別れましたから」
僕は自己申告した。
「「えっ!?」」
伊達先輩、上杉先輩は驚いて僕を見た。
「なんで振られたの?」
上杉先輩が尋ねる。
なんで僕が振られるのが前提なんだよ。
「いや、最初から付き合うのは1か月と約束してましたから」
「そうなの?!」
下校時間まで上杉先輩と伊達先輩に、雪乃との一か月の状況を根掘り葉掘り尋問を受けた。
尋問が終わると上杉先輩が言う。
「じゃあ、週末の合コンは気合を入れてやらないとね」
「そうですね」
適当に返事をする。
気合を入れるつもりはない。
「アタシたちの合コンのセッティングも忘れないでよ!」
上杉先輩に釘を刺された。
そうこうしていると、下校時間になったので首輪を外されて帰宅した。
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