期末試験最終日。
朝、いつもより早く起きて弁当作りを始める。
といっても、昨日の残り物とレンチンできる冷凍食品、ご飯も昨晩炊いたもの残り、というわけで、そんなに手間もかからず3人分の弁当が完成した。
妹に、昨日、弁当を作ってやならないと言ったことについて、小言を言われた。
それを適当に流して、家を出て学校に向かう。
試験は昼前にまでに、つつがなく終った。
今回は中間試験のような学年9位は無理だろうが、中の上の成績は確保できてそうだ。
ほっと、一息ついて、筆記用具を鞄に片付ける。
そして、僕と毛利さんは部室に向かう。
扉を開けるといつもの様に伊達先輩と上杉先輩が居た。
「いらっしゃい」
「来たね!」
僕と毛利さんが椅子に座ると、上杉先輩のテンション高く叫ぶ。
「お弁当! お弁当!」
「はいはい」
僕は3人分の弁当を取り出した。
「どうぞ」
同じ形の弁当箱がなかったが、中身は同じだ。
「あれ? 1つ足りなくない?」
上杉先輩が弁当箱の数に気付いて言う。
「弁当箱が3つしかなかったんですよ、僕は購買でパンでも買ってきます」
「待って。それじゃあ、私たちのを少しずつ分けてあげればいいんじゃないかしら?」
伊達先輩が提案する。
みんな、その提案に乗った。
というわけで、弁当箱を開けて食べ始める。
「じゃあ、あーん」
上杉先輩がおかずを箸でつまんで向けて来た。
「え? あーん、って」
僕は驚いた。
「なに? 私の弁当が食べられないっていうの?!」
上杉先輩が文句を言いだした。
そして、“私の弁当”というのは、違うと思うが。
「『あーん』は、ちょっと、恥ずかしいので…」
「何、言ってんの、これぐらい。織田さんともっとすごいことしてたんでしょ?」
「なんで、ここで織田さんが出てくるんですか? それに、織田さんとはこんなことしてません」
「いいから、早く食べて!」
奴隷は命令に逆らえないのだ。
僕はあーんしてもらった。
そして、伊達先輩と毛利さんの弁当も少しずつ分けてもらう。
もれなく、あーんをしてもらった。
女子3人から、あーんしてもらえるとか、事情を知らない人が見たら、ハーレム状態と勘違いしそうだが、現状の奴隷状態とこれまでの虐待の歴史(?)を鑑みると嬉しくもなんとも感じない。
食べ終わって上杉先輩が念を押してくる。
「来週も、お弁当持ってきてね」
「えええー…。食材にもお金がかかるんですよ」
「じゃあ、毎日200円払うから」
上杉先輩が提案する。
他の2人も代金払うことを合意したので、3人分の弁当を来週も持ってくることになった。
まあ、来週で2学期は終わり、金曜日が終業日なので実質は木曜までだから、4日間早起きすればいいだけか…。
「ところで」
上杉先輩が話を切り出した。
「明日の合コン、どう?」
「はい、準備万端です」
実は、何もしていない。
「合コンでは何するの?」
上杉先輩は疑問を呈する。
「この前、行った合コンはカラオケしただけだったので、僕もカラオケにしようと思っています」
「あ、そう。結局、メンバーは?」
「僕、片倉先輩、悠斗、サッカー部の六角と言う人の4人です」
「六角ってどんな人?」
「僕も良く知りません。悠斗の知り合いで、サッカー部と言うだけです」
しかし、どんな合コンになるのか全く予想できないな。
そう言えば、悠斗は、以前、年上が苦手って言ってなかったけ?
伊達先輩、上杉先輩は年上だけど良かったんだろうか?
まあ、いいや、毛利さんもいるし、本人が参加するって言ってるんだから。
とりあえず、明日はどうなることやら。予想不可能だな。
そんな感じで、昼食が終わった。
しばらく部室でまったりしていると、上杉先輩が立ち上がった。
「じゃあ、腹ごなしの散歩に行こう!」
その手には首輪とリードが。
「散歩するんですか?!」
「当たり前じゃん。今日は時間もたっぷりあるから校庭を一周してみようか」
校庭では当然、運動系の部活でそれなりの人数が練習をしているはず。注目の的となってしまう。
外は寒いし恥ずかしいのだが、抵抗しても無駄なので諦めて出かけることにした。
首輪とリードをつけられて、部室から出発する。
げた箱を経由して、校庭に出る。
げた箱付近で、他の生徒多数に見られて嘲笑されたのは言うまでもない。
校庭では、サッカー部とソフトボール部と陸上部が練習をしていた。
途中、サッカー部の悠斗に声を掛けられた。
悠斗は笑っている。
「純也、本当に散歩してるんだな」
さらに校庭の外周を大きく回って移動する。
ソフトボール部と陸上部にも注目を浴びて、校舎に戻る。
げた箱付近で、知った顔に出会った。
「あら、こんにちは」
大きな目で、長い髪の清楚な感じの女子。
ええと…。確か将棋部の…。名前は何だっけ…
「散歩ですか?」
将棋女子は笑いながら尋ねて来た。
「ええ、まあ」
恥ずかしいのも、もう麻痺してきたな。
首輪とリードをしていることについては、どうでも良くなってきた。
そして、思い出したぞ彼女の名前。成田さんだ。
「どうして、繋がれているんですか?」
成田さんはグイと近づいて尋ねた。
「まあ、いろいろあって…」
「いろいろって?」
何だ、グイグイ来るな。
「私、気になります!」
どっかの作品のキャラか?
「えーと…、事情があって上杉先輩の命令を聞く羽目になって」
「事情って?」
もう、質問は勘弁してほしい。
そこへ、上杉先輩が言った。
「あたしの胸を触ったから、その罰だよ」
「えっ?!」
成田さんは、驚きの表情で後ずさった。
僕は、ごまかすように尋ねた。
「な、成田さん、それより、もう帰るの? 将棋部は?」
「今日は将棋会館に用事があるので、抜けさせてもらったんです」
「ショーギカイカン?」
「ええ。ここからだと、北参道駅まで行ってから徒歩で行くんです。地下鉄だと雑司が谷駅から乗り換え無しなので、意外に便利なんですよ」
ショーギカイカンって何だっけ?
まあ、いいや。
「じゃあ」
そう言って、僕と上杉先輩は移動を再開した。
今度は校舎内を散歩する。
上杉先輩が尋ねて来た。
「いまの子、誰?」
「将棋部の成田さんですよ」
「ああ、将棋が滅茶苦茶強いって子?」
「そうです。僕も10枚落ちなのに、ボロ負けしました」
「キミ、弱いもんね」
「いや、上杉先輩も弱いでしょ」
「そうだったね」
などと話をしながら、4階の歴史研まで戻って来た。
その後は、特に命令されることもなく、しばらく過ごす。
明日の合コンの集合時間の確認をしてから、今日は少し早めに解散することになった。
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