雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

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谷島修一
谷島修一

奴隷生活12日目

公開日時: 2023年2月22日(水) 21:18
文字数:2,589

 期末試験最終日。


 朝、いつもより早く起きて弁当作りを始める。

 といっても、昨日の残り物とレンチンできる冷凍食品、ご飯も昨晩炊いたもの残り、というわけで、そんなに手間もかからず3人分の弁当が完成した。


 妹に、昨日、弁当を作ってやならないと言ったことについて、小言を言われた。

 それを適当に流して、家を出て学校に向かう。


 試験は昼前にまでに、つつがなく終った。

 今回は中間試験のような学年9位は無理だろうが、中の上の成績は確保できてそうだ。

 ほっと、一息ついて、筆記用具を鞄に片付ける。

 そして、僕と毛利さんは部室に向かう。

 扉を開けるといつもの様に伊達先輩と上杉先輩が居た。


「いらっしゃい」

「来たね!」


 僕と毛利さんが椅子に座ると、上杉先輩のテンション高く叫ぶ。

「お弁当! お弁当!」


「はいはい」


 僕は3人分の弁当を取り出した。

「どうぞ」

 同じ形の弁当箱がなかったが、中身は同じだ。


「あれ? 1つ足りなくない?」

 上杉先輩が弁当箱の数に気付いて言う。


「弁当箱が3つしかなかったんですよ、僕は購買でパンでも買ってきます」


「待って。それじゃあ、私たちのを少しずつ分けてあげればいいんじゃないかしら?」

 伊達先輩が提案する。

 みんな、その提案に乗った。

 というわけで、弁当箱を開けて食べ始める。


「じゃあ、あーん」

 上杉先輩がおかずを箸でつまんで向けて来た。


「え? あーん、って」

 僕は驚いた。


「なに? 私の弁当が食べられないっていうの?!」

 上杉先輩が文句を言いだした。

 そして、“私の弁当”というのは、違うと思うが。

 

「『あーん』は、ちょっと、恥ずかしいので…」


「何、言ってんの、これぐらい。織田さんともっとすごいことしてたんでしょ?」


「なんで、ここで織田さんが出てくるんですか? それに、織田さんとはこんなことしてません」


「いいから、早く食べて!」


 奴隷は命令に逆らえないのだ。

 僕はあーんしてもらった。


 そして、伊達先輩と毛利さんの弁当も少しずつ分けてもらう。

 もれなく、あーんをしてもらった。


 女子3人から、あーんしてもらえるとか、事情を知らない人が見たら、ハーレム状態と勘違いしそうだが、現状の奴隷状態とこれまでの虐待の歴史(?)を鑑みると嬉しくもなんとも感じない。


 食べ終わって上杉先輩が念を押してくる。

「来週も、お弁当持ってきてね」


「えええー…。食材にもお金がかかるんですよ」


「じゃあ、毎日200円払うから」

 上杉先輩が提案する。

 他の2人も代金払うことを合意したので、3人分の弁当を来週も持ってくることになった。

 まあ、来週で2学期は終わり、金曜日が終業日なので実質は木曜までだから、4日間早起きすればいいだけか…。


「ところで」

 上杉先輩が話を切り出した。

「明日の合コン、どう?」


「はい、準備万端です」

 実は、何もしていない。


「合コンでは何するの?」

 上杉先輩は疑問を呈する。


「この前、行った合コンはカラオケしただけだったので、僕もカラオケにしようと思っています」


「あ、そう。結局、メンバーは?」


「僕、片倉先輩、悠斗、サッカー部の六角と言う人の4人です」


「六角ってどんな人?」


「僕も良く知りません。悠斗の知り合いで、サッカー部と言うだけです」


 しかし、どんな合コンになるのか全く予想できないな。

 そう言えば、悠斗は、以前、年上が苦手って言ってなかったけ?

 伊達先輩、上杉先輩は年上だけど良かったんだろうか?

 まあ、いいや、毛利さんもいるし、本人が参加するって言ってるんだから。


 とりあえず、明日はどうなることやら。予想不可能だな。


 そんな感じで、昼食が終わった。

 しばらく部室でまったりしていると、上杉先輩が立ち上がった。

「じゃあ、腹ごなしの散歩に行こう!」

 その手には首輪とリードが。


「散歩するんですか?!」


「当たり前じゃん。今日は時間もたっぷりあるから校庭を一周してみようか」


 校庭では当然、運動系の部活でそれなりの人数が練習をしているはず。注目の的となってしまう。

 外は寒いし恥ずかしいのだが、抵抗しても無駄なので諦めて出かけることにした。


 首輪とリードをつけられて、部室から出発する。

 げた箱を経由して、校庭に出る。

 げた箱付近で、他の生徒多数に見られて嘲笑されたのは言うまでもない。


 校庭では、サッカー部とソフトボール部と陸上部が練習をしていた。

 途中、サッカー部の悠斗に声を掛けられた。

 悠斗は笑っている。

「純也、本当に散歩してるんだな」


 さらに校庭の外周を大きく回って移動する。

 ソフトボール部と陸上部にも注目を浴びて、校舎に戻る。

 げた箱付近で、知った顔に出会った。


「あら、こんにちは」


 大きな目で、長い髪の清楚な感じの女子。

 ええと…。確か将棋部の…。名前は何だっけ…


「散歩ですか?」

 将棋女子は笑いながら尋ねて来た。


「ええ、まあ」

 恥ずかしいのも、もう麻痺してきたな。

 首輪とリードをしていることについては、どうでも良くなってきた。

 そして、思い出したぞ彼女の名前。成田さんだ。


「どうして、繋がれているんですか?」

 成田さんはグイと近づいて尋ねた。


「まあ、いろいろあって…」


「いろいろって?」


 何だ、グイグイ来るな。


「私、気になります!」


 どっかの作品のキャラか?


「えーと…、事情があって上杉先輩の命令を聞く羽目になって」


「事情って?」


 もう、質問は勘弁してほしい。


 そこへ、上杉先輩が言った。

「あたしの胸を触ったから、その罰だよ」


「えっ?!」

 成田さんは、驚きの表情で後ずさった。


 僕は、ごまかすように尋ねた。

「な、成田さん、それより、もう帰るの? 将棋部は?」


「今日は将棋会館に用事があるので、抜けさせてもらったんです」


「ショーギカイカン?」


「ええ。ここからだと、北参道駅まで行ってから徒歩で行くんです。地下鉄だと雑司が谷駅から乗り換え無しなので、意外に便利なんですよ」


 ショーギカイカンって何だっけ?

 まあ、いいや。


「じゃあ」

 そう言って、僕と上杉先輩は移動を再開した。

 今度は校舎内を散歩する。


 上杉先輩が尋ねて来た。

「いまの子、誰?」


「将棋部の成田さんですよ」


「ああ、将棋が滅茶苦茶強いって子?」


「そうです。僕も10枚落ちなのに、ボロ負けしました」


「キミ、弱いもんね」


「いや、上杉先輩も弱いでしょ」


「そうだったね」

 などと話をしながら、4階の歴史研まで戻って来た。

 その後は、特に命令されることもなく、しばらく過ごす。

 明日の合コンの集合時間の確認をしてから、今日は少し早めに解散することになった。

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