放課後。
僕と毛利さんは、新聞部の部室に向かう。
部室の前で成田さんと合流した。
これから、成田さんが解明したという怪文書の謎について片倉部長に報告するのだ。
僕は勢いよく、新聞部の部室の扉を開けた。
すると、中では男子部員が1人いるだけだった。
彼は、パソコンに向って何やら作業をしている。
「あれ? すみません、片倉部長はどちらに?」
僕は訪ねた。
男子部員は顔を上げて答えた。
「ああ、部長なら、下駄箱にいるよ。ホワイトデーに犯人を捕まえるための予行演習をしている」
「そうですか。ありがとうございます」
僕は扉を閉めた。
「そういえば、以前、ホワイトデーに犯人が下駄箱に手紙を置くところを捕まえる、みたいなことを言ってたね」
ということで、僕らは下駄箱にほうへ向かった。
下駄箱では、授業が終わってさほど時間がたっていないこともあり、帰宅部の生徒たちが沢山いた。
そんな中、下駄箱に面する廊下で立っている片倉部長を見つけたので、僕は声をかけた。
「片倉部長」
「やあ、武田君」
「今、部室に入ったら、ここにいると聞いて」
「うん。来週のホワイトデーの予行演習をしているよ。部員たちが散って、なるべく死角の無いような立ち位置を考えているんだ」
あたりを見回すと、帰宅部の生徒があふれる中、新聞部部員の姿を見つけることが出来た。
「それで、うまくいきそうですか?」
「犯人が手紙を入れるとしたら、ホワイトデーの朝だと思うんだ。その時に捕まえられればと考えている」
「でも、犯人は下駄箱に手紙を入れるのでしょうか? 他の方法かもしれませんよ」
「そうかもしれないけど、新聞部が見張っているっていうこと自体がプレッシャーになって、なにかボロを出すかもしれないしね」
「なるほど…、そうですか…?」
「いずれにせよ、犯人はホワイトデーに何かやるって宣言しているから、朝の下駄箱以外も警戒しようと思っているよ」
「それは、警戒厳重ですね」
「新聞部としては、こういうネタは滅多にないし。個人的にも面白いからね。部員たちも楽しみながらやってるよ」
「それで、ですね」
成田さんが割り込んできた。
「例の怪文書の謎を解いたんです!」
そうだった、メインはその話だったな。
「これを、見てください!」
成田さんは、僕にも見せてくれたノートを切り取った紙の一片を片倉部長に見せる。
そして、怪文書と桂馬飛びについて説明した。
説明を聞き終えると、片倉部長は眉間にしわを寄せて考え込む。
「部活の名前…。か、それが何を意味するのかわからないね」
「そうなんです…」
成田さんは少し残念そうに肩を落とした。
さらに片倉部長は考える。
「そうなると怪文書が2通来て、まだわかっていないのは『CROWNから盗む』の部分だ。これが、部活の名前と関係あるんじゃあないだろうか?」
「CROWN=王冠と関係する部活ということですか?」
僕は訪ねた。
「そうかもしれないし。そうじゃないかもしれない。今はわからないね。少し考えてみるよ」
片倉部長は言う。
そこへ、赤いヘアピンがトレードマークの小梁川さんがやって来て、下駄箱と部員の配置について片倉部長に報告をする。
それを見ていると、突然、毛利さんが僕の袖を引っ張った。
そして、小声で僕に耳打ちする。
「(成田さんが、犯人かもしれないって話はしないの?)」
忘れてた。
「(うん。これからするよ)」
片倉部長と小梁川さんの話がひと段落したところを見計らって、僕は片倉部長にみんなと離れたところに来るように頼んだ。
僕らはすこし距離を置いた廊下の端で、毛利さんの推理について伝える。
「毛利さんの推理では、成田さんが真犯人かもしれないというんです」
「それはどうして?」
「成田さんが怪文書の謎をどんどん解明していくからです。毛利さんの考えだと、成田さんの自作自演だとか」
「なるほどね…。すると、成田さんの動機は何だろう?」
「動機?」
「こういう怪文書を作って、僕らになぞ解きをさせる動機だよ」
「それはわかりません」
「まあ、成田さんが犯人かどうかともかく、これはただの愉快犯かもしれないけどね」
「愉快犯ですか…」
「犯人は、ただのいたずら好きってことだね」
片倉部長は少し笑った。
「まあ、成田さんが犯人かもしれないってことは、頭の片隅にでも置いておくよ」
片倉部長も僕と同じように成田さん犯人説には懐疑的なようだ。
話を終えると僕と片倉部長は、ほかのみんなの所に戻った。
新聞部の部員たちも集まって来ていて、片倉部長とともに部室に去っていった。
僕と毛利さん、成田さんも、用が済んだので、ここで解散することにした。
成田さんは将棋部の部室に行くという。
僕は、もう帰宅しようと思っている。
そんなところに毛利さんが話しかけてきた。
「このあと、時間ある?」
「あるよ」
「じゃあ、お茶でもどうかな?」
「いいね」
外でお茶するのはお金がかかるので、いつものように自宅に誘う。
「じゃあ、うちに来る?」
「うん」
僕と毛利さんのやり取りをみて、笑いながら成田さんは別れの挨拶をしてきた。
「いつも仲いいですね、羨ましいです。じゃあ、私はこれで」
そう言うと、成田さんは去っていた。
成田さん、絶対、誤解してるよな。
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